格闘技イベントRIZIN28大会が13日、東京ドームで行われる。同会場での格闘技は18年ぶりという夢の祭典がいよいよ開幕する。日刊スポーツでは同大会の見どころを紹介する。第5回はバンタム級トーナメント1回戦、井上直樹(23=セラ・ロンゴ・ファイトチーム)VS石渡伸太郎(36=CAVE)。

■3戦無敗、優勝候補の井上

RIZIN3戦無敗の男・井上が、1回戦の相手に選んだのは石渡だった。今回出場している渡部や元谷にも勝利しており、優勝候補との呼び声も高い井上は、3月26日の抽選会で、隣が空いていた石渡の横に向かった。

昨年8月にも対戦を要求していたがかなわず。「ただ単に戦いたかっただけ。1回フラれていたので」と自ら実現させた。見下しているわけではない。「倒しに来るので、おとこ気があって格好いい。格上の選手とやると、練習にも気合が入る」と実力を認めている。

母から「何か習い事を」と言われ「強くなりたい」と小1から空手を始めた。15年にDEEPでプロデビューを果たすと、一気に10連勝。19歳でUFCと契約するなど、若くして海外で経験を積んだ。「契約しても勝たないと意味がないので」とおごりはない。海外では2敗したが、日本では無敗の敵無し状態。特に昨年大みそかの大会では、DEEP王者の元谷から一本勝ち。「普段やっていたことが、うまくはまって試合で出せた」と控えめながら、手応えを感じた。

現在、総合格闘家としてUFCで活躍する姉の魅津希(みずき、26)の存在も大きい。普段からユーチューブでコラボするなど仲もいい。格闘技を始めたのは井上が先だったが、プロデビューは姉に先を越された。「日本じゃ相手がいないと思う。格闘家としてすごいなと思う」と実力を認める。

指導を受ける水垣トレーナーは「技術的には申し分ないが、以前は相手に合わせている感じだった。今は意識が変わって好きな戦い方ができるようになっている。距離の感覚が細かいし、引き出しもたくさんある」と太鼓判を押す。体のケアにも手を抜かず、1週間の決められたメニューをしっかりこなし、家では自炊もしているという。

「優勝するなら勝てる相手を選ぶと思うけど、そういうわけで選んだんじゃない」。強い相手に勝つことだけを追求する井上が、RIZINの舞台でド派手な戦いを繰り広げる。

■石渡は苦節16年の東京ドーム

対戦する石渡は、抽選会で井上が隣に座ろうとしたときに「こっちに来るな」と思ったという。名前は明かさなかったが「一番やりたくなかった」と本音を漏らした。今回のトーナメントの出場選手の中で朝倉海と井上の2強だと考えていた。「(朝倉と比べて)知名度的に劣る井上はおいしくないかなと」と理由を明かした。

“2度目”の指名に「なめられているのでぶっ飛ばしてやろうと」と闘志を見せる。修斗、パンクラスなどでさまざまな相手と戦ってきた。19年大みそか大会以来、1年半ぶりの試合も「毎回久しぶりなので、始まったら思い出す感じ。知らない相手でもびっくりすることはない」と気にしない。

ぶっつけ本番のように語るが、井上に対する研究は十分にしてきた。5月27日の公開練習では軽めのスパーリング。「公開しない公開練習を心がけた。相手の得意なことは全部分かっていて、ここなら勝てる、というところも見つけている。ヒントになるのであまり言いたくない」と多くを語らない。

05年にアマチュアでリングデビュー。観客は数百人だった。格闘技にまっすぐ向き合い、苦節16年でようやくたどり着いた東京ドームの舞台。もちろん優勝を狙うが、まずはこの試合に集中する。「井上が強いので次は考えられない。勝てば優勝への道が自然と切り開かれると思うので。何があっても面白い試合になる」。研究と練習の成果をリング上で披露する。【松熊洋介】