再び聖地で圧巻KO劇!! WBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(28=大橋)が挑戦者のIBF同級1位マイケル・ダスマリナス(28=フィリピン)を3回2分45秒、TKO撃破。WBA5度目、IBF3度目の防衛、そして日本人初となるラスベガス連続防衛を成功させた。2回に左ボディーでダウンを奪取。3回にも左ボディーで2度ダウンを奪い、サウスポーを左で料理。他団体対抗王者が見守る中で完璧な勝利をみせつけ、目標の同級4団体統一へ、大きなステップを踏んだ。

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試合後、ラスベガスの会場で日本生まれの怪獣ゴジラの曲が鳴り響いた。そして本場のファンからの声援と惜しみない拍手。全米生中継興行を3回TKO勝ちで締めた井上にふさわしいBGMだった。自身初となる聖地での有観客試合は「日本と違って歓声がよりお祭り感覚。すごく気持ち良かった」。リングでは、そのさわやかな笑みから破壊的なモンスターに変貌した。

1回、挑戦者の右ジャブに左フックを合わせた。「1発目を合わせた瞬間にダスマリナスの表情も引けたような感じがあった。早い段階でいけると」。2回には左ジャブで距離を測りながら左ボディーでダウンを奪った。「顔(の強打)のKOには少し時間がかかる。最初にボディーでダウンを取った段階でボディーで」。3回に左ボディーでダウンを追加し、さらに左ボディーでレフェリーストップ。腰を引き、もん絶し、リングに転げた挑戦者を横目に「左殺しの左」で仕留めた感触を味わった。

19年に階級最強を決めるトーナメント、ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)制覇後、知名度、注目度ともアップ。エステティック、飲料水、スポーツ器具の大手メーカーのCMに登場した。渡米前の3週間、大橋会長の計らいで高級ホテルのスイートルーム(1泊最低価格約15万円)で生活。しかし井上に「おごり」はない。トレーナーの父真吾氏にたたきこまれた「教え」を忠実に守っている。

真吾氏は「もしナオの人柄が変化したら、それは一番嫌いなこと。真っ先に自分が(担当トレーナーから)引く。それを分かってくれている」と明かした。謙虚であり続ける理由。「志、欲、向上心がある」と強調した父は「金や名声のためじゃない。ボクシングへの欲。ナオが求めているのは強くなりたい、うまくないたいという欲だけ」。29歳までに4団体統一という目標だけを見据え、自らを見失うことはない。

リングサイドでWBO王者カシメロ、WBC王者ドネアが視察した。「このぐらいやらないと。そこへのアピール(意識)はすごくあった」と振り返った井上の頭には統一戦しかない。「NO・1を目指すには4団体統一が必要。すごく(その流れが)動きだしているので、あと少し」。日本人初の偉業へ、モンスターは進化を続ける。【藤中栄二】

◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。元アマ選手の父真吾さんの影響で小学1年から競技を開始。相模原青陵高時代にアマ7冠。12年7月にプロ転向。国内最速(当時)6戦目で世界王座(WBC世界ライトフライ級)奪取。14年12月にWBO世界スーパーフライ級王座を獲得し、史上最速(当時)の8戦目で2階級制覇。18年5月にWBA世界バンタム級王座を獲得し、国内最速(当時)の16戦目で3階級制覇。19年5月にWBA、IBF世界バンタム級王者に。同年11月、WBSSバンタム級トーナメント優勝。家族は夫人と1男2女。164・5センチの右ボクサーファイター。

◆世界主要4団体統一王者 過去6人誕生している。世界主要4団体となって以降、04年にバーナード・ホプキンズ(ミドル級)、05年にジャーメイン・テイラー(ミドル級)、17年にテレンス・クロフォード(スーパーライト級=すべて米国)、18年にオレクサンドル・ウシク(クルーザー級=ウクライナ)、20年にテオフィモ・ロペス(ライト級=米国)が達成。そして、階級最強トーナメントのWBSSスーパーライト級覇者ジョシュ・テイラー(英国)が5月23日、ホセ・カルロス・ラミレス(米国)との4団体統一戦を制し、史上6人目の統一王者になった。

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