決断は持ち越された。プロレスリングヒートアップのユニバーサル&PWL WORLD2冠王者TAMURA(41)から初防衛戦の相手に指名された藤波辰爾(67)が17日、川崎市のヒートアップ道場に登場。TAMURAと並んで会見に臨むも、「ここで即答はできない」と調印書のサインに応じなかった。

笑顔はなく、真剣な表情で話す藤波の姿に、穏やかな会見が一転、張り詰めた空気に変わった。11日の試合後、2冠を奪取したTAMURAが「9月17日とどろきアリーナ大会で藤波選手と対戦したい」と突然リング上で宣言。伝え聞いた藤波は返答を保留していたが、この日も「大事な試合に自分の名前を出してくれたのは光栄」と思いを受け止めながらも、首を縦に振ることはなかった。

後ろ向きな保留ではない。「8月(9日)の大会には出場する。その時に自分も何らかの答えを出したい」と語った。TAMURAのベルトに対する覚悟を確かめたかった。「即答できないというのは、この問題を大きなものとして考えているから」と藤波自身もコンディションなどを考えた上で決断をしたい意向を明かした。

ベルトへの思いは誰よりも強い。「昭和45年に入門して以来、猪木さんや馬場さんのベルトに触れることすらできなかった。それだけベルトは重いもの」。88年8月、当時新日本のIWGP王者だった藤波は師匠でもあるアントニオ猪木氏の挑戦を受けた。「教え子に挑戦しなきゃいけないというのは、猪木さんもプライドもあっただろうし、勇気を持った大きな決断だったと思う」。結果は60分戦って引き分けだったが「長いプロレス人生の中で一番印象に残っている試合」と語る。今回のTAMURAの要求も当時の自身の思いと重ね合わせ「簡単な問題じゃない」と真剣な表情で語った。

最後はヒートアップの選手たちが登場し、次々とお願い。TAMURAからも「とどろきはたくさんの人に見てもらいたい。そのためには早くタイトルマッチを決めたい」と再度念を押されたが、受け入れなかった。「本来なら電話で済む話かもしれない。でもそれはしたくなかった。ベルトにかける思い、とどろきアリーナ大会にかける熱意は伝わった。だからといってサインしましょう、とはいかない」と改めて強調した。

今年デビュー50周年を迎えた藤波。ベルト挑戦となれば約20年ぶりで、最近では体調も考慮し、シングルマッチも行っていない。「久しぶりに会見や、調印書を見てちょっと緊張した」。決断は8月に持ち越しとなった。「僕も大会を主催する側の人間。気持ちは非常によく分かる。やりたくないわけではない。TAMURAの覚悟をリング上で見たい。自分も50周年で節目の戦い。それだけ重いものがある。8月まで待ってもらえますか」。最後にようやく笑顔を見せ、会場を後にした。果たしてタイトルマッチは実現するのか。藤波の答えは8月9日に明かされる。【松熊洋介】