“元ヤン”世界王者が一気にスターダムにのし上がるか。世界初挑戦でWBC世界ライトフライ級王座を獲得した矢吹正道(29=緑)が23日、オンラインで一夜明け会見に臨んだ。

同級王座を8度防衛の寺地拳四朗(29=BMB)を10回TKOで下した激闘から一睡もせず、腫れた両まぶたをサングラスで隠した。引退も示唆した新王者だが周囲は次戦へ。ビッグマッチの可能性も出てきた。

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世界を手にしても何も変えない。腫れた両まぶたをサングラスで隠した新王者・矢吹は「今の心境といっても、パッとしないですけどね」とぶっきらぼうに言った。8度防衛の長期政権を築いた安定王者の寺地と壮絶に殴り合い、10回TKOで陥落させた。その歓喜も興奮も漂わせなかった。

試合後の会見では、このまま引退の選択肢も示唆した。この日もあらためて「昨日言った通りですね。一番強い選手とやりましたから」と完全燃焼を口にした。緑ジムの松尾敏郎会長も「彼は自分の意見をしっかり持っている。私はそれを支持するだけ」と話した。

ただ、周囲はざわざわする。過去に50回以上の補導歴。けんかや暴走行為に明け暮れた“元ヤンキー”がボクシングで更生し、世界王者となった。多くの人の心に響くドラマを描いた主人公を軸に、周囲では次戦に向けた動きが出ている。

次戦に関しては、今回世界戦のプロモーターを務めた真正ジムが興行権を持つ。矢吹のけがの具合もあり、期間的には微妙だが、年末に向けた動きも出てきた。矢吹陣営の関係者によると、今回中継した関西テレビ(カンテレドーガ)と同系列のフジテレビであれば、WBA世界ミドル級王者村田諒太(35=帝拳)をメインに、複数世界戦の構想も浮上しているという。

引退の選択肢について、矢吹は「軽量級なんで命をかけるほど稼げない」とも話した。今回のファイトマネーは推定200万円。興行権の問題もあるが全国中継となれば、ファイトマネーは間違いなく上がる。新たに支援するスポンサーの話も出てきている。「自分には家族がいる。今回もへたしたら失明もありえたんで」と家族最優先の矢吹だが、稼げるビッグマッチとなれば「そうなったら考えます」と前向きだ。

令和の「あしたのジョー」が今後に描くシナリオ。「兄弟で王者が自分の目標。自分はかなえたんで、弟をチャンピオンにしてやりたい」。弟は日本ライト級6位の力石政法(27=緑)。松尾会長が「素質は兄以上かも」と評価し、3150ファイトクラブの元世界3階級制覇王者の亀田興毅会長も、その素質を買ってプロモートに乗り出し、年内に試合が予定される。

昔は世間にうとまれた札付きのワルだった「矢吹と力石」兄弟。今はきらびやかな脚光を浴びる。【実藤健一】