立ち技格闘技RISEから“神童”が去る。那須川天心(23=TARGET/Cygames)の「生まれ故郷」であるRISE卒業マッチが2日に東京・代々木第一体育館で開催される。那須川は6月のK-1の3階級制覇王者で現スーパーフェザー級王者の武尊(30=K-1 GYM SAGAMI-ONO KREST)とのビッグマッチを最後に、ボクシング転向を明言している。RISEの伊藤隆代表(51)は、那須川とともにしてきた8年間を「本当に早かった」と振り返った。

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那須川は、03年に旗揚げされたRISEとともに大きな飛躍を遂げた。14年7月に16歳でプロデビュー。有松朝を相手に1回KO勝利という衝撃のデビューを果たすと、6戦目にして村越優汰を2回TKOで退けて第6代RISEバンタム級王座を獲得した。

その後もBLADEトーナメント優勝、ISKA世界王座獲得、RISE世界フェザー級王座獲得、RISE世界シリーズ58キロトーナメント優勝など、次々と記録を達成した。

そんな神童を、いつもそばで見守ってきたのが伊藤代表だった。成長を見届け、「本当に早かった」と8年間を懐古する。

出会いは、那須川が中学生の時。ひと目見て「すごく才能がある子だな」と衝撃を受けた。

「最初、デビュー戦でランカーを倒した時、『RISEを背負う選手になれ』と言った。それをクリアすると、次は『キックボクシングを背負う選手になれ』。最終的に言ったのが『格闘技=那須川天心になれ』だった」

那須川はそれをやってのけた。キックボクシングイベントのKNOCK OUTや総合格闘技のRIZINでも活躍。キック40戦40勝(28KO)、総合4戦4勝(3KO)、ミックス1戦1勝(1KO)の、トータル45戦45勝(32KO)と団体の壁を乗り越え、無敗神話を築いた。「那須川天心」の名は、格闘技の枠をも超えた。

「本当にいろんなことをやってきた。彼自身の常に挑戦する姿勢が大好きで、全面的にサポートして、いろんな舞台に出してきた。本当に昨日のように思い出します」

18年の大みそかには、ボクシング元5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー(米国)とのドリームマッチが決まった那須川を、RIZINの舞台へ送り出した。「やりたくてできる相手じゃないので、断る理由は1つもない」。それが理由だった。

試合は、人生初を含む、3度のダウンを取られ、1回KO負け。伊藤代表は「体重差もあるし、でかかった。ずっと不安なのは試合までは出せなかったんですけど…」と漏らしながらも、泣きじゃくる那須川へは「これから唯一の黒星をメイウェザーだけにしよう(エキシビションマッチのため実際には勝敗はつかず)」と鼓舞。裏では「全然恥ずかしいことじゃない。俺はお前を誇りに思うよ。誰ができるんだ」と、人知れず涙をぬぐっていた。

全幅の信頼を寄せてきた。だからこそ、卒業を前向きにとらえる。「やってほしい、どんどん。選手人生というのは長くないので」。どこまでも那須川の挑戦を後押しするつもりだ。

「そのかわり、ボクシングに行くからには、絶対チャンピオンになれよ、と。お客さんとしてラスベガスに行くから『絶対世界チャンピオンになれ』という思いで、僕は送り出しています」

団体最後の対戦相手に選んだのは、那須川のTEAM TEPPENの同門で同い年の風音だった。「いろいろな試合を見てきましたが、彼はこういう時に一番の力を発揮する」と、最高のファイトを期待する。

「4月2日は、今まで培ってきた格闘技人生、そして彼が学んできたRISEを見せてほしい。ラストファイト、原点に戻った試合を見せてほしいですね」

天心よ、RISEを超えていけ-。それが、伊藤代表からの送辞だ。

【勝部晃多】