プロボクシングWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者井上尚弥(29=大橋)が7日、さいたまスーパーアリーナでWBC世界同級王者ノニト・ドネア(39=フィリピン)と3本のベルトを懸けてリマッチに臨む。日本人初の3団体統一を狙うチャンスとなる。過去、井上を含め、日本人ではミニマム級で井岡一翔、高山勝成の2人、ライトフライ級で田口良一と合わせた計4人が2団体を統一したのが最高。なぜ3団体王座統一が難しいのか。強いだけでは成し遂げられない、いくつかの背景がある。

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<1>防衛期限、指名試合 世界王者には主要4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)でそれぞれ防衛期限が存在する。指名試合と呼ばれるランキング上位(基本的にはランク1位)との対戦指令が出た場合、マッチメーク交渉に入る必要がある。2団体統一王者となれば、両団体からの指名試合&防衛期限をクリアしなければならない。他団体王者と対戦するタイミングのハードルが高くなる。

<2>対抗王者の勝敗 指名試合をクリアし、対戦相手をランキングから自由に選択できる期間は統一戦のチャンスとなる。統一戦を希望してきた対抗王者陣営との交渉が進み「お互い次戦に勝ったら統一戦しましょう」と約束したものの、両者どちらかが負ければ実現できない。

昨年12月に1度組まれたWBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(志成)-IBF世界同級王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)の2団体王座統一戦はコロナ禍で延期に。両王者ともに1度防衛戦を挟んで統一戦に臨むことで合意していたが、アンカハスが敗れてご破算に。

<3>対抗王者の意向 世界王座を獲得したばかりの王者は「まず自身の強さを示したい」と一定の防衛回数を経てから統一戦を希望するケースが多い。国内では元WBA世界ライトフライ級王者具志堅用高が保持する13回という日本記録の防衛回数を狙うために従来通り、世界ランカーとの防衛戦を選択するにも自然な流れ。王者陣営にとっても統一戦よりもマッチメークしやすくコンスタントに世界戦を組めることも大きい。

<4>世界団体への承認料、高額ファイトマネー 今回の井上-ドネア戦で世界団体に支払う承認料は3団体分で推定12万ドル(約1440万円)となる。1団体あたり4万ドル(約480万円)の計算に。さらに両者ともに世界王者というリスクの高いカードとなるため、高額のファイトマネー確保が必要になる。今回の井上-ドネア戦も軽量級では破格の1億円を超える報酬を両者ともに受け取る。選手が契約を結ぶプロモーターの資金力、マッチメーク力も問われることになる。

井上-ドネア戦の3団体統一戦の実現について、プロモートする大橋ジムの大橋秀行会長は「やはりWBSS(ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ)があったことがベルトをまとめる絶好の機会となった」と解説する。

井上が参戦したWBSSバンタム級トーナメントには開幕当初、WBAスーパー、WBA正規、WBO、IBFの4王者が参加。途中でWBO王者の辞退があったものの、決勝までにWBAスーパー、IBFの両ベルトが統一された。

WBSS決勝を契機に井上-ドネア戦のリマッチ、そして今回の3団体王座統一戦も実現した。現在はWBSSが開催されていないこともあり、井上はその実力とともに運も持ち合わせた世界王者といえるだろう。【藤中栄二】