12年ロンドン五輪ボクシング男子ミドル級金メダリストで、元WBA世界同級スーパー王者の村田諒太(37=帝拳)が引退を表明した。29日から5回連載で、歴代担当記者が日本人で初めてボクシングの五輪とプロで頂点に立った拳を振り返る。

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村田を、約12年前に取材した時だった。11年11月。岐阜産業会館で行われた全日本選手権は、その年の世界選手権で銀メダリストとなって初のリングだった。ミドル級で優勝後、取材依頼すると「少し待っていてください」と2人の選手を連れてきた。高校3年ながらライトフライ級で初優勝した井上尚弥と、ライト級を制した大学4年の成松大介だった。

3人並んで写真撮影。その後、スペースの関係でこの写真を新聞紙面に掲載できない可能性を伝えると、村田は笑って言った。「この写真、いずれ使うと思いますよ」。アマに残った成松は16年リオデジャネイロ、21年東京と2大会連続で五輪出場。プロに転向した井上は「モンスター」として世界で知られる王者となった。そして、村田自身もその翌年の五輪で金メダルを獲得。「金の拳」として、プロでも17年に世界王座を奪い、日本人初の五輪金メダリスト&プロ世界王者になった。プロアマ関係なく、この3人が10年以降の日本ボクシング界をけん引するとは…。当時は想像もしていなかった。

引退後の村田はWOWOWエキサイトマッチやAmazonなどで解説者の仕事に取り組む予定だ。既にアマ時代から養われていたボクサーの未来を見極める「目」は、さらに洗練されることだろう。かつての予言通り、今回、言葉通りになった貴重な3ショット。今後の活躍により、さらに価値ある写真になると思っている。【藤中栄二】