井上尚弥が所属する大橋ジムの大橋秀行会長(58)が日刊スポーツに手記を寄せた。今年3月の井上の拳負傷による試合延期、そして、その後の約2カ月間での成長を振り返った。また年内にもWBA、IBF世界スーパーバンタム級王者マーロン・タパレス(31=フィリピン)との4団体王座統一戦を実現させることを明言。5年後に設定される井上の現役引退後のプロモーター就任プランまで明かした。
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3月16日、尚弥からプロ入り後初めて重要な相談を受けた。3月9日にメキシコ人パートナーとのスパーリング中に拳を痛めた。その後も練習を続け、無理してもやれるのかと思ったが、1週間後にセッティングされた私の誕生日会の席だった。「多分、延期は無理ですよね」と問われた。世界戦前の故障は今まで3回ほどあった。しかし、これまで腰痛などに苦しんでも絶対に何も言わずに全部、勝ってきた。初めて受けた重要な相談…。私は延期を即決した。後悔しないためだ。
昨年6月。ドネアとの2度目の対決の約1カ月ほど前に左肩を痛めた。得意の左フックが打てなかったが、尚弥からは何も言われず、試合は劇的な勝利を飾った。しかし、私は試合直前の控室で後悔していた。これまで故障を抱えていても父真吾トレーナーに「大丈夫ですよ」と安心の言葉をもらっていたが、あの時ばかりは「本調子ではないですよね」と表情を曇らせていた。あの時、なぜ私は延期を決断できなかったのか、と悔やんだ。たまたま劇的な勝利を収めたが、こんな運が続くわけがない。その経緯もあり、今回の私の決断は素早かった。
フルトン陣営、関係各所に延期をお願いし、会場はその翌日に確保した。6日間で約2カ月後の今日にスライドすることができた。フルトン陣営をはじめ、関係者にご迷惑をおかけし、さらなるご協力があって試合当日は気持ち良く迎えることができた。延期にはキャンセル料など多額の支出があったものの、尚弥にとって、結果的に約2カ月の延期は非常に良かったと言える。
まずスーパーバンタム級初戦の準備をさらに確保できた。一昨年11月からフィジカルを担当する八重樫(東)トレーナーに加え、5月からロンドン五輪ウエルター級代表の鈴木(康弘)トレーナーも加わった肉体面の強化メニューには、目を見張るものがあった。背中、両肩周囲の筋肉は、ほぼ毎日練習をみている私にも変化していったのが分かる。尚弥の通常体重63キロのまま、肉体の構造が違っているのだ。いつも節制している証しでもある。
尚弥が2団体統一王者になった今、次戦の交渉先を絞っている。もう1人の統一王者となるタパレスとの4団体統一戦をすぐに実現するつもりだ。タパレス本人とともに陣営も来日している。尚弥との対戦に前向きだと聞く。年内には4団体統一戦を日本で実現するつもりでいる。そして2階級での4団体統一に成功したら、24年は日本ボクシング界でも知られているルイス・ネリ(メキシコ)やジョンリール・カシメロ(フィリピン)との防衛戦を計画している。
まだまだ尚弥の現役生活は続くが、私は5年後、10年後も見据えている。今から尚弥には現役引退後にはプロモーターになってほしいと伝えてある。尚弥からも「やります!」と快諾を得ている。私は世界のボクシング界に名前が知れ渡った尚弥のような人物がプロモーターとして最適だと考える。いつも私の想定する未来を超えながら走っている尚弥は、本当に頼もしい存在だ。(元WBA、WBC世界ミニマム級王者、大橋ジム会長)

