新横綱が明治神宮を“パニック”に陥れた。第72代横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)の横綱推挙式と奉納土俵入りが27日、東京・渋谷区の明治神宮で行われた。19年ぶりの日本出身横綱を一目見ようと、約1万8000人の観衆が訪れた。歴代新横綱の最高は貴乃花の約2万人だが、その日は土曜日。平日最多だった初代若乃花の約8000人を1万人も上回る中、堂々たる雲竜型の土俵入りを披露した。

 青空の下で純白の綱が輝いた。新横綱が第3鳥居をくぐって拝殿内に入った瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が起こった。掛け声も飛ぶ。「稀勢の里! 日本一!!」。拝殿内に密集した約5500人、入りきれない人も含めれば約1万8000人の観衆が熱狂する中で午後3時50分、待望の奉納土俵入りが始まった。

 19年ぶりの日本出身横綱の初披露を一目見ようと、徹夜組がいた。午前6時40分の開門と同時に約20人が中へ。次第に行列が連なり、午後0時10分には第3鳥居から神橋まで約600メートルも伸びた。拝殿内に入れる人数の限界だと判断され、そこで規制がかかった。入場制限は、その19年前の3代目若乃花以来だった。

 その後は「入れないからと帰られる方が多かった」と父萩原貞彦さん。それでも、貴乃花の2万人に匹敵する勢いだった。当時は土曜日。平日開催では化粧まわしを借りた「土俵の鬼」の初代若乃花の8000人をはるかに上回った。報道陣も約300人が訪れた。

 裏を返せば、それだけの人が待っていた。期待を背負った稀勢の里は、力強い雲竜型の土俵入りを披露した。「ゆったりと、大きく力強く。つま先から頭の先まで集中してやりました」。「立つな!」「見えない!」という怒号も飛び交う中で「よいしょ!」の掛け声は盛大だった。1つ1つの所作に気を配り、堂々とせり上がる。新横綱にありがちなミスもない。「たくさんの方に見ていただいて本当にうれしかった。ありがたい。もうそれだけです」と感無量だった。

 初優勝が決まった14日目の21日から1週間。新横綱誕生の一連の公式行事は終わった。一気に駆け抜けた。「場所終わりの1週間を何十回も味わいましたけど、こんなに濃い1週間は15年、相撲を取っていて初めて。一生忘れられない1週間になりました」。多くのファンの期待を目の当たりにし、力強く背中を押されて、新横綱は第1歩を踏み出した。【今村健人】

 ◆明治神宮奉納土俵入り 新横綱が東京・明治神宮で日本相撲協会理事長から推挙状を授与され、最初の土俵入りを奉納する儀式。1951年に昇進した第41代横綱千代の山のときから推挙式と土俵入りがともに明治神宮で行われるようになった。