4場所連続休場明けの横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)が、復活ののろしを上げる今年初白星を挙げた。先場所は金星を配給した東前頭筆頭の北勝富士(25=八角)を寄り切り。立ち合いで頭からぶつかると、終始主導権を握った。初日こそ21歳の貴景勝に敗れたが、勢いのある若手に連敗は許さず、存在感を見せつけた。

 歓声が最大級になるはずの結びの一番を前に、会場が一瞬、静まり返った。祈るような思いで多くの観衆が見つめていたのは横綱、大関陣で唯一、白星のない稀勢の里だった。鋭い踏み込みの立ち合いは、頭からぶちかました。余裕はないが、迷いもなかった。左腕をたぐられ、場内からは悲鳴が上がったが動じなかった。即座に突き放し、土俵際に追い込んだ北勝富士に左を差すと、あとは万全の形で寄り切るだけだった。

 仕切りの静けさとは正反対に、大歓声を背に支度部屋に戻った稀勢の里は「しっかり集中した。よかったですね」と、笑顔はなく、かみしめるように話した。初日は攻めながらも、土俵際で貴景勝のとったりに敗れた。この日はまわしにこだわらず、最後まで攻め続けた。「いろんな流れがありますから」と、相手のお株を奪うぶちかましに突き放し。得意の左四つにこだわるよりも、先手を奪うことに重点を置いていた。

 北勝富士には昨年11月の九州場所で敗れ、今場所前に出稽古した。三番稽古は8勝4敗。相手を研究しつつ、何よりも稽古熱心な性格を知った。立ち合いの変化はないと確信し、頭からの立ち合いに踏み切る頭脳的な取り口でもあった。

 昨年は負傷が続き、皆勤を目指しては途中休場の連続。そんな中、初場所を控えた昨年12月27日の夜に、食事に誘われた兄弟子で部屋付きの西岩親方(元関脇若の里)から「10番ちょっとの稽古では復活できない。横綱が泥にまみれても構わないよ」と言われ、目が覚めた。

 年末年始は弟弟子の高安と三番稽古を重ねた。稽古納めの12月29日は30番(26勝)、稽古始めの1月2日は31番(25勝)。同6日には40番(26勝)。ぶつかり稽古では高安に転がされ、泥まみれになった。横綱としては珍しい姿だが「(鳴戸部屋時代を)思い出したね」と、すがすがしい笑顔で話していた。

 原点に回帰したからこそ頭からぶちかます、かつての取り口に戻るのは自然だった。それでも「今日は今日ですから。まだまだこれからです。また明日集中したい」。謙虚に白星を追い求める、強い稀勢の里が帰ってくる。【高田文太】