トーナメントで争われる大会の幕内決勝は、秋場所で西前頭6枚目の阿武咲(22=阿武松)が、3連覇を狙った横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)を押し出しで破り、初優勝した。

直前の場所で平幕だった力士の優勝は、65回大会の安馬(のち横綱日馬富士)以来、12年ぶり4人目。鶴竜(33=井筒)、白鵬(33=宮城野)の両横綱は、ともに1回戦で敗退した。

優勝した阿武咲は、決勝の相手が稀勢の里だったことに「稀勢関でしたからね。本場所ではないけど、特別な思いがありました。まあ、本場所で(対戦)しないと意味がないけど」と感慨深げに話した。本場所前には、よく横綱自ら阿武松部屋に出稽古し、荒々しい相撲で稽古をつけてもらった。そのあこがれの横綱に、番付の昇降に影響しない花相撲ではあるが、恩返ししたわけだ。

それも立ち合い、右で張って左もかち上げ気味と、本場所さながらの取り口。それまでの稀勢の里の相撲を見て「ずっと受けている感じだったから、いきなりでビックリした。あの張り差しはけっこうクリーンヒットで一瞬、見えなかった」と面食らった。それでも「あとは左を差されないようにと。稽古をしているみたいで楽しくて、ずっと土俵にいたかった」と異空間を楽しんだ。

表彰式では、師匠で審判部長の阿武松親方(元関脇益荒雄)から、優勝の表彰状を授与された。「(今年夏場所の)十両優勝に続いて2回目。緊張しました」と笑み。4勝11敗に終わった秋場所の鬱憤(うっぷん)を晴らしたが「でも(好成績は)本場所でないと意味がない」。5月までは同門の総帥として、事あるごとに言を受けてきた貴乃花親方(元横綱)の退職には「ずっと稽古を見ていただいて、教えていただいた。相撲にどれだけ真っすぐ取り組むか。そこをしっかり考えてやりたい。いい相撲を取るのが一番の恩返し」と話した。