若隆景(27=荒汐)が大横綱双葉山以来86年ぶりの新関脇Vへ、再び優勝争いのトップに並んだ。大関貴景勝との激しい攻防を寄り切りで制し、12勝目をあげた。前日に単独トップの東前頭7枚目の高安は、大関正代のすくい投げに敗れた。3敗を守った西前頭6枚目の琴ノ若を含め、いずれも初優勝の3力士が可能性を持って千秋楽に向かう。

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【千秋楽取組】2敗で並ぶ若隆景は正代、高安は阿炎と対戦 1差で追う琴ノ若は豊昇龍と 春場所

これぞ若隆景の真骨頂だった。立ち合いこそ、大関貴景勝の圧力で土俵際まで押し込まれた。だが、余裕すら感じさせる。しっかり残すと右を差し込んで逆襲。「下からの意識しかなかった」といつもの言葉通り、攻め上げて大関を寄り切った。新関脇で12勝。優勝争いのトップに再び並び、「立ち合いは押し込まれたが残せたのはよかったと思います。必死に相撲をとっているんで」と淡々と言葉を繰り出した。

10日目に幕内後半戦の審判長を務めた元大関武双山の藤島親方が「昔のお相撲さんのよう」と表現した。体重130キロと幕内では軽量。その体格差を補う武骨さがある。「下から」が代名詞。大きな相手にもひるまず、武器の左右おっつけを駆使して、下から攻め上げることで白星を重ねた。

その原点は幼少期にあった。学法福島高時代の恩師、相撲部顧問の二瓶顕人(にへい・あきひと)教諭(36)が語る。地元の相撲教室で、若隆景がまだ小学校低学年の時が初めての出会いだった。「小さくて細くて、かわいかった印象。弱かったですよ」と振り返る。一方で、「負けず嫌いははんぱなかった。稽古は一切、手を抜かなかった」と証言する。

努力だけでは埋められない体格差の克服へ、鍛錬を積み重ねてきた。同じく小兵ながら横綱まで上り詰めた3代目若乃花の相撲がバイブルだった。「しっかり呼び込んで、下からというイメージです。一生懸命、相撲をとっているという感じです」。大きな相手をどう攻略するか。工夫、知力、鍛錬を重ねて千秋楽まで優勝を争う存在になった。

次の大関候補としての地位も確立させた。そして初優勝の夢も千秋楽につなげた。「自分の相撲に集中したい。明日、思い切って相撲をとりたいと思います」。自ら引き寄せた大チャンス。持てる力のすべてを出し尽くす。【実藤健一】

 

◆優勝争いの行方 2敗の若隆景と高安、3敗の琴ノ若に絞られた。若隆景と高安のどちらかが勝ち、どちらかが負ければ勝った方が優勝。ともに勝てば両者による優勝決定戦へ。ともに負けて、琴ノ若が勝てば3敗で並び、ともえ戦(3人での優勝決定戦)となる。3人そろって負けた場合も、若隆景と高安による決定戦に。決定戦になれば21年夏場所以来(○横綱照ノ富士-大関貴景勝●)。ともえ戦となれば、94年春場所以来7度目。