西前頭8枚目の熱海富士(21=伊勢ケ浜)が、初体験の結びの一番で初の“銀星”を挙げ、優勝争いのトップを守った。
大関豊昇龍を突き落とし、幕内3場所目で2場所連続2桁白星の10勝2敗。先場所は千秋楽の優勝決定戦で大関貴景勝に敗れたが、注目の一番にも動じず、落ち着いて取り切った。今場所は初土俵から所要19場所目。同24場所目で初優勝した貴花田(貴乃花)、朝青龍という後の両横綱の史上最速優勝を、大幅に上回る快挙に近づいた。大関霧島(27=陸奥)は、関脇琴ノ若との2敗対決を制し、こちらもトップを守った。
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大歓声が期待の表れだった。初めて結びの一番の土俵に立った熱海富士は、豊昇龍のにらみに動じず、落ち着いた堂々の立ち合い。大関の当たりを正面で受けると前に出た。すぐに押し返されたが、左に回り込みながら相手の右差しを抱えて小手に振った。相手が前のめりに飛ぶのを見て、俵を伝いながら突き落とし。取組前を上回る大歓声を呼んだ。「勝ったのでうれしい。(最後は)体が動いた」。トレードマークの人懐っこい笑顔で言った。
9月秋場所の経験が生きた。返り入幕の幕内2場所目で快進撃。千秋楽を単独トップで迎えた。しかし、本割で朝乃山、決定戦で貴景勝に連敗。初優勝を逃し、支度部屋に戻る通路では「アーッ」と、目を赤くしながら怒気を交えて大声を発した。そんな経験をしたからこそ「結びで緊張したか?」の問いに「先場所で決定戦をしたのであまり」。冷静に大一番を迎えられていた。
前日11日目は幕内前半の中でも、さらに前半で取っていた。取組時間は1時間半近く遅くなったが、「ゆっくりできるのでうれしい」と意に介せず、大物感を漂わせる。巡業のトークショーで「怖いものは?」と聞かれると「おばけとバンジージャンプと親方」と、笑って話す癒やし系。この日も、部屋の兄弟子の横綱照ノ富士から助言を受けたと明かしながら、内容は「秘密」といたずらっぽく言い、笑いを誘った。
初めて大関を破った要因も「いつも通り、と思って取った」と気負いはなかった。そんな熱海富士に、幕内後半の審判長を務めた佐渡ケ嶽審判部長(元関脇琴ノ若)は「若くて元気がいいのが出てくると面白い」と、2場所連続の優勝争いを評価。年6場所制となった1958年(昭33)以降初土俵の力士(付け出しを除く)で、ダントツ最速の所要19場所目での優勝へ-。先場所逃した賜杯を、今度こそつかみ取る。【高田文太】

