3歳で初舞台を踏み、いったん舞台から離れた後、12歳で父美山昇二郎の後を継いだ里美たかし(33)。「劇団美山」の座長を襲名してから20周年の節目を迎え、12月21日に、大阪・新歌舞伎座で座長20周年記念公演を行う。色香漂う女形から任きょうまで、多様な顔でファンを魅了し続ける里美。新歌舞伎座は初出演になる。節目を迎えた今の思い、これからを聞いた。

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新歌舞伎座で20周年公演が決まった。

里美 大舞台に挑戦したいという夢があって、母が僕へ20周年記念としてプレゼントをしてくれた。

20周年を振り返れば、濃密な日々だった。

里美 濃かった。3歳で初舞台、この世界が嫌いになって、いったん離れて、でもやりたいって何かが芽生えて、小学6年の終わりに劇団を旗揚げ。12歳でした。当時は劇団員も4人でした。今は16人。波はありましたが、大きなケガ、病気もなく、やってこられた。感謝です。

20年の転機は父の死だった。

里美 ひとつは21歳のときにおやじ(美山昇二郎)が亡くなったこと。仕事への取り組み、メンタルが大きく変わりました。そして30歳を迎え、力がふっと抜けるようになりました。

各地域で再び、注目を集めている大衆演劇。ライバルも多く、どう劇団の個性をアピールしていくか、日々、考えている。

里美 どう個性を出し生き残っていくか。これからは、エンターテインメント性がないとウケないと思う。そこを追求したい。その中で、俺らの色を出して。

里美自身のカラーは…。

里美 黒です。おれの色は純粋なきれいな色じゃないと思う。何色にも染まらないのが黒。どんな色にも負けない。それで、他のメンバーがそれぞれの色を出していってくれたら。

成功の鍵のひとつは、俯瞰(ふかん)的な目線だと、理解している。

里美 お客様を楽しませて、でも、自己満足になったらだめ。つねに、お客様の目線に立って考えるように。俺たちは一発勝負。次、呼んでもらえないかもしれない。新しいこと、楽しませること、次々に考えて、お見せしていきたい。

母(70)は今もステージ裏で、厳しくも優しい目で見守る。勘違いもただしてくれる大切な存在だ。

里美 おかんがいつも「今日のよかったと思ってる?」と言って、勘違いしていたら、それを気付かせてくれる。おやじもよく「自分に酔うな、客席を酔わせろ」と言っていました。

その精神は後輩の役者にも伝えている。

里美 ただね、若手にも言いますけど、酔っていいんです。「どうだ? よかっただろ」って。酔った後に、本当によかったのか、立ち止まって考えればいい。酔うことが自信になるのなら、それでいいと思う-と、母がよく言ってました(笑い)。

父の後を継ぎ、若くして劇団を率いた息子に、自覚、自信を持たせようと、母は考えていた。

里美 「今日の俺よかった-。そう思うのは布団に入ってからでいい。自信になるなら」とも言っていましたね。よく。

夢中で駆け抜けた20年。その後には、まだ考えが及んでいない。

里美 今は頭の中真っ白。20周年が終わったら、決まると思いますが、本当に来年のことは分からない。

20周年公演に全精力を傾けた後、「何か向かう道が見えると思う」と言う。

里美 好きなことを毎日、舞台でしていて、やりたいと思ったことは、やってみることができる環境にいる。ありがたいことに。それが大衆演劇のいいところ。走り続けられるうちは走り続ける。つねに走り続ける人でいたい。もういいやろ-そう思ったら、終わりだと思っています。

亡き父、今も母から言われる「自己満足」に留意し、まっすぐ進むつもりだ。

里美 新しいこと、やりたいことをやって、すっごいバカウケして「ウオッシャー!」って思っても、あくまでも「お客様がのせてくれてる。そうしてくれてる」と思うことが大事。そこを忘れないで。その気持ちがなくなったら、僕は終わりだとも思ってます。勘違いしてもいいけど、後で気付けるように。客観的に見る目も持っていかないといけないと思っています。