第75回NHK紅白歌合戦は、初出場のB’z、41年ぶり2回目のTHE ALFEEを筆頭に、GLAY、高橋真梨子、イルカ、南こうせつ、玉置浩二らベテラン勢が存在感を示した。

もう1人、圧巻の歌唱を見せたベテランが、41年連続47回出場の石川さゆり(66)だ。24年元旦に大地震、9月に記録的豪雨で甚大な被害を受けた被災者らに向け、「能登半島」を熱唱した。

最多出場の石川は、紅白で07年以降「津軽海峡・冬景色」と「天城越え」を交互に歌ってきた。この2曲が年越しを感じさせるというNHK側の意向だった。07年以前にも両曲を歌っているので、紅白でそれぞれ13回ずつ、計26回歌ってきた。

「能登半島」は03年の紅白で歌い、今回が21年ぶりの歌唱だった。石川は会見で「ずっと(2曲を)代わりばんこに歌ってきましたが、今歌わずして、いつ歌うんだ」と、強い意気込みを示していた。

これまでの紅白で、石川は真っ赤な炎の映像をバックに歌うなど、凝った演出が準備された。今回は実にシンプルだった。

ステージ中央に現れた石川は、歌唱前に「今年私は『能登半島』を歌います。能登の皆さんに元気になっていただきたいです。復興への道のりは、まだまだ遠いと思います。皆さんの元気な笑顔と、そして平凡な日常が1日も早く戻りますように、心を込めて歌います」と語り掛けた。

そして、まさに絶唱というにふさわしい歌唱で、能登への思い、復興への願いを届けた。歌唱後、穏やかな表情で「皆さん、元気でいてください」と両手を振った。

今年の紅白のテーマは「あなたへの歌」だった。「幼いころ聴いた懐かしいあの歌」「涙を流した時に支えてくれたあの歌」。「チャレンジしている今、背中を押してくれる歌」。そして「まだ前を向けない時に寄り添ってくれた歌」などである。

これらのテーマに添っていたのが、石川らベテラン勢の歌唱だった。能登半島の輪島市から中継で「能登はいらんかいね」を歌った36回出場のベテラン坂本冬美(57)も、もちろんその1人である。

紅白は「歌の力」をよくアピールする。特に大きな災害時に、紅白は被災者にエールを送ってきた。

雲仙・普賢岳火砕流(91年6月3日)の年の紅白では、長崎出身のさだまさしが作詞・作曲した「SMILE AGAIN」を出場歌手全員で歌った。

阪神・淡路大震災(95年1月17日)の年の紅白では、前川清が神戸の夜景をバックに「そして神戸」を熱唱した。被災者が「歌って欲しい」と要望した。

新潟県中越地震(04年10月23日)の年は、新潟出身の小林幸子が初の大トリを務めた。恒例の豪華衣装を封印し、黒地に新潟の県木ユキツバキの花をあしらった着物で、代表曲「雪椿」を涙で熱唱した。

東日本大震災(11年3月11日)の紅白では、演歌系のベテラン勢がふるさとの歌を熱唱した。北島三郎は「帰ろかな」。森進一は歌詞に被災地名が登場する「港町ブルース」。五木ひろしが「ふるさと」。岩手出身の千昌夫が「北国の春」。誰もが「歌の力を信じて歌います」と誓った。

熊本地震(16年4月14日)の年は、氷川きよしが特別許可を得て、被災した熊本城から生中継で「白雲の城」を熱唱した。

若いアーティストの歌は、今を生きる若者の背中を押し、支えてくれるだろう。

一方、ベテラン勢の「歌の力」は時空を越えて、人々の心に届く。それぞれ紅白の大きな役割である。

    【笹森文彦】