ドラマ「北の国から」などで知られる脚本家の倉本聰(くらもと・そう、本名山谷馨=やまや・かおる)さんが18日、多臓器不全のため、北海道・富良野市の自宅で死去した。91歳。倉本財団が28日、公式サイトで発表した。葬儀は近親者で執り行われた。晩年も、老後の人生を描いたテレビ朝日系ドラマ「やすらぎの郷」など創作意欲は衰えなかった。
◇ ◇ ◇
2008年(平20)8月、今から18年前にフジテレビの連続ドラマ「風のガーデン」の制作発表が、脚本を担当した倉本さんが住む、北海道の富良野で行われた。「もう73歳だし、これが最後の作品になるかもと思って取り組んでいる」と、倉本さんは意欲を見せた。
主演は中井貴一(65)。「役者は悪くなくちゃいけない」という持論を持つ倉本さんは「スケベな医者の役だから貴一しかないといないと思った。品行方正だから欠点を入れてやろうとね」と笑った。そしてヒロインを演じた黒木メイサ(38)を「素晴らしいね。若いのにこびないのがいい」と絶賛した。
中井の父親役の緒形拳さんにインタビューして取材は一段落。飯を食って、倉本さんが「どこもかしこも禁煙はけしからん。たばこを自由に吸えるところを」とプロデュースした岩蔵のようなバー「ソーズ・バー」に繰り出して酒を飲み出した。と、突然、倉本さんが姿を現した。
好き勝手にあれこれしゃべっていると「ところで、君はどこの社の記者だ」と聞かれたので「日刊スポーツです」と答えた。すると、倉本さんは「日刊スポーツか、僕は君の社にひどい目にあったぞ」と言い始めた。日刊スポーツは2002年(平14)2月6日付の社会面で「北海道の演劇団体『富良野塾』塾生33人中18人が食中毒」という記事を報じていた。一応「すみませんでした」と謝ると、「しかもご丁寧に、僕のプロフィルを添えてるんだ。塾生が勝手に食中毒を起こしたのに」。すかさず「それはうちの同僚はいい仕事をしていますね。丁寧にちゃんと先生のプロフィルを載せるなんて、同じ社の人間として誇りに思います」と反撃すると、「そうか、そうだな」と破顔一笑。楽しい酒席が続いた。
21年の11月末には、同年3月に88歳で亡くなった「北の国から」の主役黒板五郎を演じた田中邦衛さんについてインタビューするため、13年ぶりに雪深い富良野へ赴いた。コロナ禍が、まだ影を落とす世の中だった。黒板五郎役には6人の候補者がいたという。高倉健さん、中村雅俊、藤竜也、西田敏行さんという名優の名前が挙がった。倉本さんは「一番情けないのは誰だろうと考えたら、間違いなく邦さんだった」と振り返った。
映画「若大将シリーズ」の癖のある青大将役で知られた田中さんだが、倉本先生は「青大将をやめてくれ」とオーバーな芝居を禁じた。「俺から青大将を取ったら何もねえ」という田中さんを説得して、シャイな日常を生きる黒板五郎が誕生した。
雪に閉ざされ、電気も通らない北海道の地で、嫁に逃げられ、純と蛍という子供2人を抱えた五郎。必死に生きていく男、黒板五郎を田中さんは演じた。「ドラマには陰と陽が必要だと思う。1人の人間の中に陰と陽があるんだけど『北の国から』には陰な人が多かった。五郎のいとこを演じた大滝秀治さんなんかも、素晴らしいんだけど陰な役柄だった」。陰な役柄が多い中で、地井武男さん、竹下景子らの役が明るさをもたらした。
そんな中で飛びきりの明るさを放ったのが、大滝の息子役で、純と蛍から慕われた草太兄ちゃん。岩城滉一(75)が演じた草太兄ちゃんを、倉本さんは「とんでもない陽を放り込んでみた。草太兄ちゃんこそ『北の国から』の救いだった」と振り返った。草太兄ちゃんは98年のスペシャル「北の国から'98時代」で事故に巻き込まれて死んでしまう。岩城滉一ファンの記者が「なんで、草太兄ちゃんを死なせてしまったんですか」と責める口調になると、倉本さんは「そうだな、草太兄ちゃんを死なせたのは間違いだったかもしれない」と口にした。大脚本家の思わぬ言葉に、こちらの後の言葉が続かなくなった。
この8月いっぱいでサラリーマン生活を終え、自由を楽しみながら記者生活を送っている。時間ができた中で、楽しみにしていたのが倉本先生のいる富良野を再訪することだった。夏か冬か、考えるだけでも楽しかった。再会はかなわなかったけど、数々の物語は心に刻み込まれている。
ありがとうございます。あの世で田中邦衛さんと再会して、物語を続けてください。ご冥福をお祈りします。【小谷野俊哉】



