状況や動機が明らかになるにつれ一層、戦慄(せんりつ)を覚える。先週日曜夜、渋谷区の路上で母と娘が女子中学生に刃物で刺され、重傷を負った。

この通り魔事件、15歳少女の中に私たち日本社会の犯罪状況が凝縮されているように思えてならない。

少女は「誰でもよかった」「2人殺せば死刑になると思った」と供述しているという。昨年の小田急線、京王線車内の殺人未遂放火事件。「(被害女性が)勝ち組っぽかったから」。あるいは「平気で人を殺す米映画の主役にあこがれていた。自分も2人以上殺して死刑になりたかった」。こうした無差別殺人が10代の少女にまで乗り移っているのだ。

また少女は「不登校になった自分より弟をかまっている母と弟を殺そうと思い、予行演習のためにやった」と供述。最終目的は親族殺人だったことがわかった。

ここ数年、日本の殺人事件の発生件数は900件台で、他国から見たら驚異的な少なさだ。ところが、常にこのうちの半数以上を夫婦、親子、兄弟間などの親族殺人が占め、これも他国から驚異の目で見られている。そんな親族殺人願望が15歳少女の胸も覆っていたのだ。

無差別殺人と親族殺人。この2つのまったく異質なもので病んでしまっている私たちの社会。それにしても事件の翌日、埼玉県戸田市教委が早々開いた記者会見、あれは一体何なんだ。

「戸田市の中3女生徒という情報しかなく、詳細はお答えできません」。あきれた報道陣から「なんで会見を開いたんだ」と突っ込まれると「何か隠蔽(いんぺい)していると思われたくないので」。

こんな人たちこそが、この病んだ社会をより重篤にしているのではないのか。

◆大谷昭宏(おおたに・あきひろ)ジャーナリスト。TBS系「ひるおび!」東海テレビ「NEWS ONE」などに出演中。