師走の永田町は、自民党派閥パー券をめぐる「裏金疑惑」で、ピリピリしている。その大きな要因が、ただでさえ支持率低迷で追い込まれ気味の岸田文雄首相を支える松野博一官房長官が、所属する安倍派の政治資金パーティー売り上げの一部のキックバックを受け「裏金」としていた疑惑で窮地に立たされているためだ。詳細の説明を一切拒んでいることも状況をさらに悪化させている。

松野氏は毎日午前と午後の2回行う記者会見で、捜査中であることを理由に、裏金疑惑に関する質問に答えていない。8日には衆参両院で予算委員会集中審議が行われ、松野氏に質問が集中したが、「お金は受け取ったのか」「キックバックはあったのか」という蓮舫氏の直球質問にも「お答えを差し控えさせていただきます」などと、回答拒否を連発し続けた。

官房長官は政権の要で、スポークスマン。それなのにまともな説明すらできず、超防戦一方。「アルマジロ」といわれるゆえんだが、それでは政権がもたないとして「辞任不可避」が既定路線となってきている。

自民党派閥パー券問題の取材をしていると、少し前から「松野さんはかなり厳しいのではないか」の声が、少なからずあった。松野氏は安倍派中枢の「5人組」の1人。「5人組」は全員に裏金疑惑が指摘される(座長の塩谷立氏も)最悪の事態だが、中でも松野氏の動向は岸田首相の政権運営にもかかわるためだ。疑惑、特に「政治とカネ」の疑惑が出れば最も立場が厳しいのは想像に難くない。

岸田首相は「増税メガネ」と指摘されるが、松野氏も「眼鏡」で知られる。記者会見を日々見ているだけでも眼鏡が頻繁に変わっているのに気付く。眼鏡のおしゃれに気を配っているのは、知られた話だ。

また、松野氏は世襲の岸田首相とは異なり「たたきあげ」として知られる。松野氏のホームページなどによると、早大時代は映画会社への就職を目指し、卒業後は家庭用品大手の「ライオン」で広告制作に関わった。その後、政治を志し、松下政経塾、自民党千葉県連の公募を経て国会議員になった。1度落選して2度目の挑戦で政界入り、世襲議員が幅を利かせる自民党にあっては、「苦労人」の類に入る人物だ。

「地味だが安定性がある」「よくも悪くも、無駄なことは言わない」(いずれも自民党関係者)などの評判が多いようだが、岸田政権の中枢に加え、自民党最大派閥安倍派中枢「5人組」の一角にものし上がった。「人当たりはいいが結構野心家」と話す人もいる。経歴を見ているとなんとなくうなずける側面もある。

そんな松野氏について今、永田町で話題なのが、松野氏のホームページにある「エッセイ」だ。特に「政治家はどこで酒を飲むのか」というタイトルのもの。松野氏は「映画やテレビドラマの影響で、『政治家が飲むところ=料亭』というのがお決まりとなっている。しかし、実際のところ『料亭に行ったことがありますか』と問われれば『ある。でも、ほとんど無い』という答えになる」と記し、批判されることが多い「料亭政治」と自身の関係の薄さについて書いていた。

また「さて、今僕はどんなところで飲んでいるかというと、お気に入りの場所がある。仕事で多勢の方と会い、家に帰る。冷蔵庫から缶ビールを取り出す」「リビングを抜けて裏庭に出る(別に前庭がある訳ではない)。三方を隣家に囲まれていて、目の前に塀がある。狭い庭だ」と解説。庭に小さなテーブルといすが置いてあるとして「椅子に深く座ってビールのプルトップを引く。リビングから洩れてくる明かりの中で唯一開けている空を見る」などと「家飲み派」であることを告白し、「うちにあるビールはカロリーオフの発泡酒しかないけど」と締めくくっている。

政権中枢幹部となった最近の文章ではないにしても、「庶民派議員」であることをアピールしていたようにも受け取れる。それだけに、実力者となった今、取りざたされる裏金疑惑との乖離(かいり)がなおさら、クローズアップされる皮肉な事態を招いている。

官房長官が、自身の任期中に自分の問題で辞任するのは異常事態。前のケースも19年前で、官房長官が辞任に追い込まれるのはそれだけ重い。そのまま首相の政権運営にも影響するためだ。特に今回、政権と自民党要職に安倍派幹部を配置していた岸田首相にとっては、大誤算。後任の選び方にも相当慎重を期さなければならず難しいという見方があり、「松野ショック」ともいわれている。

例年の師走の永田町は、臨時国会が終わればすっかり「店じまい感」が漂う。今年は13日に国会会期は終わるが、「松野ショック」でそんな空気は皆無だ。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)