今年2月の衆院選で大勝し、圧倒的な数の力を手にした自民党。その原動力が「高市旋風」であることは明らかで、だからこそ、最近じわじわ批判を受けることも増えてきた高市早苗首相のさまざまな振る舞いに、表だっては「もの言えぬ」状態が続いてきたのだと思う。ただ、選挙圧勝のお祝いムードという、本来の意味とはちょっと違うけれど「ハネムーン期間」が終わるころの5月あたりから、自民党内の空気も少しずつ変わってきているように感じる。
空気を変える一つのきっかけとなったのは、週刊誌の中傷動画疑惑報道に端を発した高市首相の国会答弁だったと思うが、「内閣総理大臣としての『お作法』が、これまでの総理とはちょっと違う」(関係者)との声も、耳にするようになった。中傷動画疑惑では、野党の追及に対する答弁が微妙にブレたり、野党の詳細な質問通告を事前に受けていた際には、秘書による「陳述書」提出を答弁に代えさせてほしいと「心からお願いしたい」と要請。ただ、これは「答弁拒否」になりかねず、さすがに後日「答弁しないということではない」と修正する事態となった。国会への出席をめぐり記者との質疑で、「(これまでにも)誠実に答弁してまいりました」と笑顔で語る高市首相の様子をしらけた様子で見ていたのは、野党だけではなかったと思う。
高市首相は衆院選の第一声で、「私は本当に本当に歯を食いしばって30年以上かけて、やっと内閣総理大臣になれた。今までできなかった仕事ができるかもしれない。そういう立場に立った」と言っていた。その選挙で「数の力」を握ったことで、「やりたくても今までできなかった仕事」をとにかく進めたい。自らに協力してくれた日本維新の会との約束を果たすためにも、維新肝いり2法案の成立方針も曲げず、野党が反発しても応じない。そんな状況の中、国会では、自民党が高市官邸と野党の板挟みになりながら対応しなくてはならない。国会では今、そんな「不毛な悪循環」(野党議員)が続き、正常化への道筋が見通せない。
そんな中、自民党にこれまでにない動きがみられたのは6月下旬のこと。高市首相が衆院選で「悲願」と述べた消費税減税をめぐり、自民党内の税に関する意思決定機関・党税制調査会の副会長を務める小渕優子元選対委員長が、税調内の「インナー」と呼ばれる非公式幹部会合のメンバーを辞任する意向を示したと報じられた。小渕氏は党内で財政規律派で知られ、「消費税減税」方針への反発ではないかと見る向きもある。小渕氏自身は公では何も語っていないが、この情報が伝えられると、「『小渕優子の乱』ではないか」との声も聴いた。
当初「ゼロ」方針ながら、レジ改修により時間が短くすむとして、与党側が、超党派の国民会議でその是非についてほとんど議論されていない「1%案」を提案。野党側は「だまし討ち」と反発し、国民にとって一日も早く結論が知りたいはずの消費税減税の議論が、まさかの停滞となっている。そんな中での小渕氏の動きは、消費税をめぐる与野党の議論にも影響を与えかねないとの受け止めもあると耳にした。
小渕氏は、小渕恵三元首相を父に持ち、若手のころからさまざまなポストを経験。重鎮の後ろ盾もあり、将来が嘱望された自民党女性議員の1人だ。ある意味、「たたき上げ」で首相にのぼりつめた高市首相とは、タイプが異なる女性政治家。大臣時代の「政治とカネ」をめぐる問題や、最近では長年後見人となっていた青木幹雄氏の死去もあり、これまでとの立場の変化を指摘する声もあった。それでも、自民党の有力女性議員の1人であることには違いない小渕氏が、高市首相が「悲願」と位置づける消費税減税に異論を唱えるようなポスト辞任報道が出るのは、これまでくすぶっていた自民党内の「言いたいこと封じ込め状態」にきしみが出始めている前触れのようにも感じる。
ある自民党関係者は「党内にある総理への潜在的な不満が、ここまではっきり表に出たのは初めてではないか。消費税減税に懐疑的な声は少なくなく、政策で高市路線とは異なる議員の動きがさらに表面化すれば、高市首相と自民党との『溝』も、さらに深まるかもしれない」と口にした。
先週は、動きがすっかり止まってしまった衆議院と対照的に、参議院では委員会再開の動きが出ている。3日には沖縄・北方特別委員会が開かれ、明日6日には高市首相が出席し決算委員会が開かれる。時間は4時間弱。立憲民主党は、中傷動画疑惑や首相のかつてのプロフィル問題なども、質問項目の一部に予定する。そこで高市首相はどう答えるのだろうか。これまでの国会答弁や、与党の国会運営で法案がたなざらしとなっている状況に、野党からは「総理も与党も全部、言いっぱなし、やりっぱなし」とする声もある。足元でこれまでと違った動きがみられる中、答弁内容も含めた「総理のお作法」を高市首相がどう体現するか、野党だけでなく自民党の中でも注視されている。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)




