出店加速のスタバに対し、閉店の多いドトール

ドトールは売上高がコロナ前を超えたが、客数についてはコロナ前には届かない(記者撮影)
ドトールは売上高がコロナ前を超えたが、客数についてはコロナ前には届かない(記者撮影)

コロナ禍で沈んだドトールコーヒーの売上高が、回復基調をたどっている。

運営会社ドトール・日レスホールディングス(HD)が11月14日に公表した、ドトールコーヒーの10月の既存店売り上げは、前年同月比13.5%増と25カ月連続で前年同月比を上回った。客数は同5.2%の増加にとどまるが、2022年12月に実施した価格改定が寄与した。


繁華街や駅前立地で客足が戻る


コロナが襲った2020年以降、ドトールは客数が激減し、売上高も低迷。その後も在宅ワークなどの定着もあり苦戦が続いていた。ところが、コロナ影響が緩和した今年5月頃から人流が回復。とくに、ドトールを多く出店する繁華街や駅前立地で客足が戻った。

ドトールは業績も復調している。新型コロナウイルスの影響を強く受けた2021年2月期は、ドトールコーヒー単体で売上高585億円(前年比26.6%減)、営業損失27億円(前期営業利益48億円)と大幅に数字を落としていた。

しかし、今2024年2月期上期(2023年3~8月期)のドトール単体の業績は、売上高428億円(前年同期比14.2%増)、営業利益21億円(同3.3倍)と増収増益で着地。2024年2月期の通期業績も、売上高801億円(前期比5.5%増)、営業利益26億円(同2.5倍)を計画する。

順風満帆に見えるドトールだが、店舗数の推移を見ると違った側面が見えてくる。

ドトールは2008年に1482店舗(ドトールが運営するエクセルシオールカフェなども含む)でピークを迎えたものの、そこから徐々に店舗数を減らしている。2023年9月末時点では1276店舗と、ピーク時に比べて10%以上減少している。



スタバはコロナ禍でも大きく減速しなかった


一方で、競合するスターバックスについては、コロナ禍でも大きく減速することがなかった。

運営会社スターバックス コーヒー ジャパンの業績については、コロナの影響が強かった2021年9月期は売上高2092億円(前期比20.3%増)、営業利益123億円(同14.3倍)、2022年9月期も売上高2539億円(前期比21.4%増)、営業利益251億円(同104%増)と好調をキープしている。

業績好調につれて、店舗数もここ数年拡大している。2023年9月末時点で1885店舗を構え、2024年9月期中に2000店舗の到達を狙う。

数年前までは、ドトールの店舗数はスターバックスを上回っていた。

2016年9月末時点では、ドトールが1339店舗に対し、スターバックスは1211店舗と100店舗以上の差があった。今やそれが逆転し、2023年9月末時点ではドトール1276店舗に対し、スターバックス1885店舗と、600店舗超もの開きになっている。

両者の店舗数に大きな差が出た要因のひとつは、店舗戦略の違いだ。

スターバックスは郊外型の店舗にも力を入れている。郊外型店舗では、ドライブスルーの導入も促進している。こういった事情から、駅前や繁華街中心で展開するドトールなどの競合ブランドよりも、「出店できる立地は多い」(スターバックスコーヒージャパン広報)ため、店舗数を大きく増やすことが可能だ。

また、スターバックスはフラペチーノなどの飲料メニューを拡充し、スコーンやドーナツといったフードメニューも増やしているので、コロナ禍でも郊外型店舗を中心に集客できた。

他方、ドトールは1980年の初出店時から小さな店舗の出店を続けた。2010年代以降は店舗形態の見直しに注力し、現在のような客席スペースを広く持つ店舗への転換を進めていた。



都内は出店競争が激しい


ただ、スペースに余力のある店舗となると、他の飲食チェーンとの競争が激しくなる。中でも、ドトールが得意とする都内では出店競争が厳しく、無理に出店するとなると自社ブランド同士で、客数の奪い合いが起きる懸念もある。

「(都内で)出店したとしても十分な売り上げを確保できるとは限らない。(大幅に店舗数を増やすのは)難しいだろう」と、ドトール・日レスHDの関根一博取締役は話す。

ドトールは今期、通期ベースで店舗純増20店を計画している。だが、8月までの時点で計22店舗を出店したものの、フランチャイズ店舗の閉店もあり、全体では1店舗の純増にとどまっている。通期20の純増計画はハードルが高そうだ。

出店の他にも、ドトールには一段成長に向けた課題がある。客数の取り戻しだ。

ドトールの既存店客数は2023年9月が前年同月比7.9%増、10月が5.2%増と上向いているように見えるが、「コロナ前の2019年と比べると90%に満たない」(ドトール・日レスHDの星野正則社長)。直近の売上高の挽回は、2022年12月に実施した値上げの寄与が大きいのだ。

戻りが鈍いのは朝の時間帯だ。コロナ影響が薄れたものの在宅ワークが定着したことで、「朝の出勤の際に、顧客がドトールに立ち寄ってコーヒーを買うような習慣が減ってしまった」と、関根取締役はこぼす。

この課題について、もちろんドトールは無策ではない。毎月異なるポイント還元キャンペーンを実施することで、顧客の集客に努める。

メニュー面でも強化を図る。2023年9月からハムタマゴサラダのモーニングセットを販売するなど、朝の時間帯での集客を意識した商品を拡充している。


ドトールは「コーヒー屋」のこだわり


カフェチェーンを取り巻く競争環境は、いっそう激しくなっている。「王者」スターバックスだけでなく、伊藤園傘下のタリーズコーヒー、フランチャイズ店を中心に急成長するコメダ珈琲店など強豪がひしめく。

低価格路線を標榜し、世界で急拡大するコッティコーヒーも2023年8月に日本に上陸した。ファストフードチェーンのマクドナルドやモスバーガーもカフェメニューに力を入れている。

関根取締役は「スターバックスは(フラペチーノを柱とする)スイーツ屋だ。一方、ドトールは焙煎屋(コーヒー豆の焙煎加工卸会社)から出発したコーヒー屋。顧客の利用目的がそもそも違う」と強調する。飲料については、あくまでコーヒーにこだわった成長戦略を描く。

しかし、「コーヒー以外のドリンクをある程度充実させなければ、今後大きく業績を伸ばすことは難しいのではないか」と、カフェ業態に詳しい業界関係者は指摘する。

複数の課題を抱える「コーヒー屋」ドトールは、再成長へ向けてどのような戦略を描くのか。本格的に客数を取り戻せるかどうかが、当面の焦点となりそうだ。

【金子 弘樹 : 東洋経済 記者】