日本のストリップショーは今年で誕生70周年を迎えた。最盛期は全国で300軒以上あったストリップ劇場も今では20軒を切るまでに減少。絶滅の危機と言われる一方で、その芸術性に注目した女性客が急増するなど新たな動きも見られる。7回にわたって、ステージで観客を魅了し続ける個性的なストリッパーたちに話を聞くことで、“ストリップの今”に迫ってみたい。


日本のストリップ誕生70周年


 布やフラフープ状のリングを使って空中で次々にアクロバティックな技を披露する「エアリアル」と呼ばれるパフォーマンスは、2000年に入ったあたりから、サーカス集団「シルク・ドゥ・ソレイユ」によって世界的に知られるようになった。

 このエアリアルをストリップのステージに最も早く取り入れたのが「空飛ぶストリッパー」浅葱アゲハである。


浅葱アゲハの「エアリアル・リング」ステージ(撮影・南野秀次)
浅葱アゲハの「エアリアル・リング」ステージ(撮影・南野秀次)

 彼女が天井から吊るされた布やリングにつかまってフワリと宙に舞い、目を細めた艶かしい表情でさまざまなポーズや技を決めるたびに、スレンダーな身体に浮かび上がった筋肉が美しく躍動する。シルク・ドゥ・ソレイユやジャニーズのように高さのある舞台空間で繰り広げられるエアリアルも迫力があるが、天井の低いストリップ劇場の舞台で逆さまになった浅葱の頭が床スレスレの状態で素早く回転する様子も、見ていて実にスリリングなのだ。

 ホワンとした声と口調で彼女はこう話す。

 「そうですね、関東の劇場はどこも天井が低いですね。空中で足を広げると奥の壁に当たってしまったり、やれることが限られる劇場もありますし、京都のDX東寺という劇場は舞台の高さが5メートルくらいあるので、同じ演目でも構成や動きを変えたりとか。何か、どちらも好きですけど」


浅葱アゲハの「エアリアル・リング」(撮影・南野秀次)
浅葱アゲハの「エアリアル・リング」(撮影・南野秀次)

 もともとは縄師と組んだ「緊縛ショー」や自らを縛って吊り上げる「自吊りショー」で“空中の楽しさ”を知ったという。

 「ずっと自分のことが大嫌いで、自分を痛めつけたい願望があったんです。その手段を考えるうちに、大学に入ってから、SMのショーパブで働いて緊縛ショーで吊られるようになって。『空中、楽しいなあ』と思いましたし、お客様が喜んでくださるのがうれしくて、自分を痛めつけるためのSMより、ショーそのものを頑張れる方向に行きたいなと考えるようになりました」


浅葱アゲハの布を使った「エアリアル・ティシュー」(撮影・ケロッピー前田)
浅葱アゲハの布を使った「エアリアル・ティシュー」(撮影・ケロッピー前田)

 2004年にストリップ劇場に初出演。今年4月に劇場デビュー13周年を迎えている。

 それまで自吊りショーをメインに活動してきた浅葱がエアリアルと出会ったのは10年ほど前のことだった。

 「映画の『グラディエーター』をモチーフにした演目を考えていた時に、布を使ったほうが合うんじゃないかなと思って、いろいろ動画を見ていたらエアリアルの動画を見つけて。当時は今ほど教えているところがなくて、ほとんど見よう見まねの自己流なんです。最近は教室も増えたので、休みの時に教わりに行ったりもしています」

 劇場出演時には1日4回、エアリアルを取り入れたショーを見せている。

 「空中演技は危険がつきものですが、安心して楽しんでいただけるように決して落下事故は起こさないように毎回細心の注意を払って演技しています」

 このところ、初めてストリップ劇場を訪れる“一見”(いちげん)の客や女性客が増えつつあることについては、「ストリップのステージにエンターテイメント性を見いだす方々が増えて知られるようになり、提供側もそれに呼応するように演出演技に切磋琢磨し続けた結果であると思います。老若男女幅広く楽しめる娯楽であり続けてほしいですね」と分析する。


浅葱アゲハの「エアリアル・ティシュー」の一場面(撮影・ケロッピー前田)
浅葱アゲハの「エアリアル・ティシュー」の一場面(撮影・ケロッピー前田)

 現在、全国に約20軒ほどあるストリップ劇場のうち、20日間ごとに踊り子の入れ替わる浅草ロック座(中には40日間のロング出演をする踊り子もいるが)以外の劇場は寄席と同じく10日間ごとに出演者が替わるシステムを取っている。劇場が減った分、劇場出演の少ない踊り子もいる中で、フリーとして活動する浅葱のエアリアル・ショーは各劇場から引っ張りだこの状態が続いているのだ。

 「ここ数年はずっと休みが数週という感じですが、すごくありがたいお話ですし、劇場さんが求めてくださるんだったら、そこは頑張らせていただきたいです。でも、もっといろいろ上達しないといけないので、本当は休みを取って勉強しないといけないんですけど。身体や気持ちは疲れている時があっても、劇場で会う人たちが好きなので、逆にこちらが元気をもらっている部分が大きいですね」

【西条昇】


☆浅葱アゲハ出演情報

 6月21日~30日 A級小倉劇場

 7月1日~10日 DX歌舞伎町

 7月11日~20日 京都・DX東寺

 7月21日~31日 池袋ミカド

シアター上野の前で(撮影・西条昇)
シアター上野の前で(撮影・西条昇)

 ◆西条昇(さいじょう・のぼる)1964年、東京生まれ。江戸川大准教授。専門はジャニーズ、お笑い、ストリップなどを中心とした「舞台芸術」と「大衆芸能史」。新聞・雑誌へのコメントと執筆、テレビ出演も多数。著書に「ニッポンの爆笑王100」など。今年3月には浅草・東洋館でストリップ誕生70周年イベントの企画・構成・司会を担当した。http://saijo-noboru.blog.so-net.ne.jp/