保守派の論客で知られ、「朝まで生テレビ!」などでも活躍した西部邁(にしべ・すすむ)さんが21日、死去した。78歳。東京都大田区の多摩川で自殺を図り、溺死したとみられる。河川敷で、遺書が発見された。昨年末に発売された著書では独特の死生観をつづり、あとがきに「自殺」をほのめかすような表現もあった。20日に放送されたTOKYO MXテレビの番組では「言論はむなしい」とも語っていた。通夜、葬儀・告別式は行わない。

 警視庁によると、21日午前6時40分ごろ、大田区田園調布5丁目の多摩川河川敷で、西部氏の長男から「父親が川に飛び込んだ」と110番通報があった。警官や消防が西部氏を救出したが意識はなく、搬送先の病院で死亡が確認された。外傷はなく、溺死とみられる。長男が21日未明に捜索願を出していた。

 西部氏は北海道出身。東大在学中、東大自治会委員長として60年安保闘争で指導的な役割を果たした。86年に東大教授に就任したが、人事をめぐる対立で88年に辞任。その後は、評論家として活躍した。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」では、時に他の出演者と激論。代表的な保守論客として論壇を超えて知られる存在に。14年ごろまで、安倍晋三首相とも会食した。

 昨年末には、雑誌「AERA」で、政治風刺的なネタで話題のお笑い芸人、ウーマンラッシュアワーの村本大輔(37)と対談。最近まで活動を続けていた。20日には、TOKYO MXテレビ「西部邁ゼミナール」が放送され、対談相手との会話で、先人の知識人の言葉を引用しながら「言論はむなしい」と述べていた。

 14年に妻が他界。その後は自身の死への思索を深め、著作などでも言及する機会が増えていた。

 昨年12月刊行で、帯に「最期の書」と書かれた「保守の真髄(しんずい)」(講談社)は娘の口述筆記で書き上げ、神経痛のため「78歳にして書記というものをまったくできなくなった」と記した。後書きに「僕はそう遠くない時機にリタイアするつもり」「そのあとは、できるだけ僕のことは忘れて、悠々と人生を楽しんでほしい」と娘に語り掛け、担当編集者に礼を述べるよう記すなど、出版前の「死」を示唆。「述者のある私的な振る舞いの予定日」が、昨年10月22日の衆院選と当初重なったとも書いていた。

 著書では「自然死と呼ばれているもののほとんどは、実は偽装」とし、実態は「病院死」と指摘。自身は「生の最期を他人に命令されたり弄(いじ)り回されたくない」とし、「自裁死」を選択する可能性を示唆。長く主宰した論壇誌「表現者」も昨年、顧問を引退。近年は周囲にも自殺の可能性をほのめかす発言をし、翻意を求めても覚悟を固めた様子だったという。