元経済産業省官僚の古賀茂明氏(62)が12日、日刊スポーツの取材に応じ、元キャリア官僚の立場から森友文書改ざん問題について「忖度(そんたく)連鎖の最後の1ページに過ぎない」と指摘した。佐川宣寿国税庁長官は決裁文書に証拠が残っていた中で、最も上官だったから“切られた”にすぎず、問題の本質に切り込むには4人の証人喚問が必要だと語った。

 文書原本に登場する安倍晋三首相の昭恵夫人を筆頭に、当時の夫人付職員で籠池氏との連絡を仲介した谷査恵子氏、その谷氏や籠池氏とやりとりした財務省理財局の国有財産審理室長だった田村嘉啓氏。そして、交渉当時の理財局長だった迫田英典前国税庁長官の4人だ。

 古賀氏は「ある意味、佐川氏は被害者」と話し、理財局長に着任し、全てを知って「青ざめたのでは」と語った。明るみに出す選択肢を選ぶのは難しく「隠蔽(いんぺい)」の道を選んだと推察。さらに「迫田氏には伝え聞いただろうし、事務次官、官房長、麻生大臣も知っていたのでは」と語った。しかし、佐川氏以上のポストに伝達した決裁文書はなく、証拠がないのが現状だ。

 7日、この問題の担当部署にいた近畿財務局の職員が自殺。このニュースを聞いて真っ先に「東京地検も捜査を担当し、谷さんの身柄を守るべきだ」と思ったという。谷氏は経済産業省のノンキャリアの官僚で古賀氏の部下だった時代もあり「真面目でルールを守る人だった」という。

 ただ、谷氏が昭恵夫人の名前を出さずに籠池氏の要望を財務省に伝えても、門前払いされるのが落ち。しかし、昭恵夫人の付き人をやっていると伝えるだけで「出世案件」となり、本省職員が丁寧に対応する。谷氏は昨年8月、在イタリア日本大使館1等書記官に栄転していた。

 「官僚にとって首相夫人の名前は大きく影響する」とした上で「官僚も『普通の人』だから出世もしたいし、上司の覚えも良くしたい」と語る。首相夫人の案件となれば特別扱いになるのは当然で、その意向が官僚に伝えられた時点で忖度が起きるといい「最初は小さかったうそを重ねる内に、どん底にはまってしまったのが今回のケース」と述べた。ただ、「『文書は捨てられない』という官僚の性(さが)が最後に出たことで、発覚に至った」と分析した。

 今回の文書だけでは証拠不十分で、麻生財務相や安倍首相の進退問題にはならないと解説。今後の焦点は「昭恵夫人の関与」だ。昨年2月、安倍首相は国会で「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と答弁しており、「関与が判明すれば退陣するしかない」と断じた。

 これまでも官僚の人事権を掌握してきた安倍政権。既に官僚の頭には「政権が求める道から外れたら犬死に」とすり込まれているという。加計学園、自衛隊PKO日報問題と「とんでもない問題でも政権運営に響くことなく生き延びてきた」と振り返る。今回の問題でも延命すれば「安倍政権の強大さを思い知るだろう」と語った。