9月6日の北海道胆振東部地震発生から3カ月が経過した。震度7の地震に見舞われた厚真町は、起業したい人材を募り、支援する施策として15年に始めたローカルベンチャースクール(LVS)の募集を再開した。立ち上げた厚真町産業経済課の宮久史さん(38)は「より良い町を作るため、外部の力も巻きこみながら町が進んでいけるかが大事」と狙いを語った。
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北海道で初の震度7に見舞われた厚真町は、山肌から300~400立方メートルともいわれる土砂が押し寄せ、36人が亡くなり1118人が避難を余儀なくされた。その中、町が起業家を育成する施策として16年に始めたLVSの中止を決めた。
LVSは、起業したいがノウハウのない人を募集し、町内で選考合宿を行い、役場職員、起業の専門家を交え企画立案を行う。合格者は町に拠点を移して事業を展開するが、第3弾の募集を始めた段階で地震が発生。電気、水道をはじめ復旧が最優先で、人材を受け入れる状況ではなかった。
LVSを立ち上げた宮さんは「被災した町に来て下さいとは言いづらかった。町民も『移住者より、まず俺たち』と思う」と中止を考えたが9月末に思い直した。「復旧と未来に向けた復興を同時進行してもいいと思った。今、必要なのは人材。現状を知った上で来たいと言ってくれる人は町の力になる」。10月に入り宮坂尚市朗町長に提案して快諾され、再開を決めた。
「外部の力も巻きこんで、協力してもらいながら町が進んでいけるかが大事」と語る宮さんの言葉も、具現化してきた。11月30日に仮設住宅2期工事が終了し、避難者が0になり、6日には避難所が閉鎖された。さらに19日の町議会では、起業のために移住し被災した人材が仮設店舗などを作るための予算が承認されるなど町民と移住者の復旧、復興は両輪で進んでいる。
LVSの募集は20日で締め切ったが、来年1月11日まで募集する町役場職員の採用にLVSを用いる新たな試みを行う。LVSでは応募者に町でどういうことを行いたいかのプレゼンが課されるが、町役場職員の採用希望者にも、志望動機や目標などを発表してもらうことで、やる気のある人材を確保したい狙いがある。
発生から3カ月がたった今も、町の各所に傷痕が残るが宮さんの視線に迷いはない。「人々の心には温かさがある。温かい人が人を呼ぶ循環が回り続けるから町を離れる人がいない。震災を契機に、先送りにした課題や古いシステムを変え、良い町をもう1回作ると覚悟しないと進んでいけない」。いてつく土砂が復興の足かせとなる酷寒の中、厚真町は前に進んでいく。【村上幸将】