Tシャツやキーホルダー、マグカップにクリアファイル。改元に便乗したグッズが続々と登場している。これらには「時代背景や社会の空気感が強く刻まれている」と話すのは、平成初期の文化や風俗を研究する山下メロさん。改元グッズを通じて見えてくる平成元年と令和元年の変化を聞いた。
◇ ◇ ◇
-盛り上がってますか
山下さん 「令和グッズ」は、インターネット上では新元号が発表された4月1日がピークでしたね。4月の元号関連の話題は「令和」より「平成最後」。令和は、月半ばには、ひとまず終息していました。
-早いですね
山下さん 何しろ、1日午前11時半に漢字2文字で発表、と事前に分かっていました。意匠を用意して、漢字部分をブランクにして待てばいいのです。発表の数分後には、アクリル製キーホルダーやTシャツなどさまざまな商品が、続々と電子商取引(EC)サイトにアップされました。正午前までが勝負でした。
-簡単に作れるのですね
山下さん 今は、個人で簡単に印刷、加工できるプリンターや加工機が割と安く手に入るので、自宅や印刷会社で1個から作れます。キーホルダーの場合、デザイン画像だけを即座にネットにアップし、受注後にアクリル板に印刷、カットするだけ。在庫が要らず、生産単位は小さく、工場も流通ルートも不要です。技術革新とネットの普及が、スピード感ある個人の参入を可能にしたと言えます。
-平成の初めはどんな感じでしたか
山下さん 30年前も、金属製のキーホルダーやテレホンカード、小型のちょうちんなど、いろいろありました。こうした雑貨小物は、中小企業が金型を起こし、工場ラインに乗せて、観光地の土産物店や寺社のルートに卸す、というのが通常でした。しかし、担い手だった企業は90年代に倒産したり、工場を海外に移転したりしました。産業構造、商品流通の変化も参入の障壁を低くしたと言えるでしょう。
-当時は売れたのですか
山下さん 今も「平成」や「平成元年」のキーホルダーを20種類ほど見つけることができました。ただ「当時、買ったことがある」という人に会ったことがない。あまり盛り上がらなかったようです。
-なぜですか
山下さん 平成は昭和天皇の崩御という自粛ムードで始まったためか、グッズの多くは筆文字の元号と二重橋などの穏当な絵柄。商品としての面白みはありませんでした。ところが令和は、発表から改元まで1カ月と時間的余裕があった上におめでたムードで、多少ふざけていても誰もとがめない。「令和」の中に「アフロ」の文字が隠れているTシャツ、といった遊び心のある商品もあった。作る方も買う方も気軽に楽しんでいるようです。
-面白い研究ですね
山下さん 改元グッズのような大衆文化を学問的に収集、研究しようという人は少ない。でも、こうした商品にこそ時代背景や社会の空気感が強く刻まれているものです。私が収集している平成初期の土産物の絵柄や文字には「平成レトロ」とも呼ぶべき、昭和末期の軽薄なファンシーが色濃く残ってます。令和の改元グッズも、後から見れば、2019年の時代背景や空気感が読み取れるはずです。4月半ばごろから、従来の生産、流通ルートに乗せた商品が、観光地の土産物店にも出回っています。大型連休終盤は、将来の「令和レトロ」を探しに出かけてみてはいかがでしょう。【取材・構成=秋山惣一郎】
◆山下(やました)メロ 1981年(昭56)3月29日、広島市生まれ。80年代末から90年代後半までの時代を「平成レトロ」と命名。主に全国の観光地を回るなどして収集した土産物から、当時の文化や風俗を研究している。著書に「ファンシー絵みやげ大百科」(イースト・プレス)。7日まで、東急ハンズ新宿店で開催中の「マニアフェスタ」に出展。