日本人として最多4度の宇宙飛行を行い、国際宇宙ステーション(ISS)で日本人初のコマンダー(船長)を務めた若田光一氏(55)が、新時代「令和」の宇宙開発と、世界の最先端を走る「日の丸テクノロジー」の高さを熱く語った。宇宙航空研究開発機構(JAXA)理事を務める多忙な中、飛行訓練などを欠かさず、今度は日本人最年長の宇宙飛行士を目指す。

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-人類が初めて月面に降り立ったアポロ11号の快挙から50周年を迎えました

若田氏 2大国家主導の競争から米ロ協調の平成を経て、日本は宇宙開発で世界の中枢を担っています。国際宇宙ステーション(ISS)で日本の実験棟「きぼう」も10周年。ISSに物資を補給する「こうのとり」は7回連続で成功したが米ロはすべて成功していない。宇宙へ物資を運び、不要物資を地球に持ち帰ることは簡単なことではない。種子島から打ち上げられた「こうのとり」がISSの安定運用を支えている。ロボットアーム技術は日本が世界をリードし、超小型衛星をISSから放出する技術も日本が最先端です。

-2014年に日本人初のISSコマンダー(船長)を務めた時にロシアがクリミア半島の併合を宣言して米ロ対立が激化した

若田氏 私以外は米国人2人、ロシア人3人で現役軍人もいた。米CNNと、ロシアのチャンネル1が伝えるニュースの内容が違う。でも「地球にいない地球人は我々6人だけだよね」と米国人と英語、ロシア人とはロシア語で話し合った。特殊な環境だから連帯感があったが、船長はふにゃふにゃしてちゃいけない。

-それでもチームワーク維持は大変だったのでは

若田氏 ストレスがたまってもゴルフいったり、お酒を飲みにも行けない。そんな中で食べ物は偉大です(笑い)。日本の宇宙食も約30種類もあって、仲間がISSでの作業を頑張ってくれたり、誕生日なんかの時には「サバのみそ煮」「シャケごはん」をプレゼント。ロシア人はシャケが大好きでアメリカ人は魚がダメだったけどカレーライスは大好き(笑い)。僕は軍人じゃないけど彼らは戦友です。野球で例えるなら、宇宙空間で無事にゲームセットを迎えられた。

-宇宙空間での研究と成果にはどんなものが。

若田氏 新薬の開発に不可欠な「良質なタンパク質の結晶」を作る実験があります。地上では重力で結晶がつぶれて良質な結晶が作りにくいが宇宙空間は無重力なので作りやすい。宇宙では筋肉萎縮、骨密度低下の現象が起きる。マウスを0G(無重力)と遠心加速器で地上と同じ1G(重力)にした環境とで飼育し、DNAの分子レベルで比較できる装置を持っているのは日本だけ。「健康長寿社会」の実現へ向けた医学的なさまざまな実験も日本が最先端です。

-月面開発が加速する

若田氏 その通りです。ISSを地球周回から月周回に舞台を移し、本格的な有人探査と開発を行う。トヨタ自動車とタイヤ大手ブリヂストンが月面探査車両「有人与圧ローバー」を開発してオールジャパンでの参入も進んでいます。

-これからの目標は

若田氏 いつでも宇宙飛行に行けるように飛行機の操縦訓練、筋トレを続けています。JAXAの定年が60歳なのでそれまでには(笑い)。日本人最高齢の宇宙飛行士を目指します。

【取材・構成 大上悟】

◆若田光一(わかた・こういち) 1963年(昭38)、埼玉県大宮市(現さいたま市)生まれ。浦和高時代は野球部。九州大学大学院で航空工学を専攻し、日本航空勤務を経て、92年にJAXA前身の宇宙開発事業団(NASDA)の宇宙飛行士候補となる。96年1月にスペースシャトル・エンデバー号で初飛行。昨年4月にJAXA理事に就任。家族はドイツ人の妻と1男。