囲碁界に史上初の10代名人が誕生した。第44期名人戦7番勝負第5局(静岡県熱海市「あたみ石亭」)は、挑戦者の芝野虎丸八段(19)が、252手までで張栩(ちょう・う)名人(39)に白番中押し勝ちした。対戦成績を4勝1敗とし、初挑戦で名人を奪取。最年少19歳11カ月での7大タイトル獲得で、09年に井山裕太四冠(30)が達成した20歳4カ月を10年ぶりに塗り替えた。

芝野は偉業を成し遂げていても、ひょうひょうとしていた。「最後の方で勝てると思った。(史上初の10代名人の実感は)よく分からない」と対局後、言葉少なだった。張栩は、囲碁を始めた時のタイトル保持者。そのトップ棋士から奪取した。

14年にプロデビュー。将棋で藤井聡太七段がデビューして旋風を起こした17年に、芝野もブレークした。第26期竜星戦で初タイトル獲得。17歳8カ月は史上最年少だった。規定で、当時の三段から七段へ飛び級した。プロ入り2年11カ月での全棋士参加棋戦制覇と、七段昇段は史上最短だった。翌年には日中竜星戦で、世界最強と言われる中国の柯潔(か・けつ)九段(22)も下した。若手注目株がついにタイトルを手にした。

1日に10時間以上、研究に費やす。その一方で犬の散歩を趣味にしている。オンとオフを切り替えるのがうまい。AI搭載のソフトにも造詣が深い。兄は同じく囲碁棋士の芝野龍之介二段(21)で、「アルファ碁zeroの衝撃~龍虎VS最強AI」など共著もある。

芝野は規定により9日付で九段に昇段。日本棋院によると、こちらも最年少、最速での最高段位到達となる。小学生の女流プロ、仲邑菫初段(10)とともに、新たなスターが囲碁界に登場した。【赤塚辰浩】

▽敗れた張栩 芝野君が強かった。レベルが高いし、後悔はあるが、それなりに一生懸命やった結果。明らかに内容的に完敗だった。

◆芝野虎丸(しばの・とらまる)1999年(平11)11月9日、相模原市生まれ。6歳の頃、ゲームソフト「ヒカルの碁3」を父からもらい、囲碁を始める。14年9月、プロ(初段)に。15年二段、16年三段、17年、竜星戦で優勝して七段に。新人王戦も制した。19年八段。17年には最多対局賞、最多勝利賞、連勝賞(66局53勝13敗、16連勝)。兄は芝野龍之介二段(21)。