2020年東京オリンピック(五輪)を記録する公式映画の監督を務める、河瀬直美監督(50)の国内で初めての大規模特集上映「映画監督 河瀬直美」が、24日から都内の国立映画アーカイブで開幕する。監督人生30年の節目に、作り上げた31本の作品を上映する特集上映の実現にあたり、取材に応じた河瀬監督は「五輪公式映画をやらせていただく機会とともに、こういう特集上映がやってきた」と感慨深げに語った。

特集上映は、河瀬監督が世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)で新人監督賞「カメラドール」を受賞した97年の「萌(もえ)の朱雀(すざく)」、審査員特別大賞を獲得した07年「殯(もがり)の森」など劇映画の代表作のほか、同監督のルーツとも言えるドキュメンタリー作品も上映される。18年11月に、パリのポンピドゥー・センターで「河瀬直美監督特集 特別展・特集上映」が開催されたことはあるが、国内で特集上映が開催されることへの喜びは、ひとしおだ。河瀬監督は「国内で、というのは、私自身にとってもチャンス」と語る。

「チャンス」という言葉の裏には、深い思いがある。河瀬監督は、18歳で大阪写真専門学校(現ビジュアルアーツ専門学校)に入学した際、初めて8ミリカメラと出会い、映像表現に興味を持ち、88年に「私が強く興味をもったものを大きくFixできりとる」を撮った。92年に生後すぐに生き別れて記憶にすらない父親を探すことで自らの出自を問う「につつまれて」を撮影するなど、ドキュメンタリー作品を次々と製作。同作品は95年に山形国際ドキュメンタリー映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど世界的に評価された。

その後、軸足を移した劇映画でも、ドキュメンタリー作家出身の経験から、俳優にロケが行われる地域で撮影前に数日、生活することなど役として生きることを求める。真実をフィルムに刻み込む姿勢は、ドキュメンタリー作家の頃から一貫している。河瀬監督は「それぞれの作品を全部合わせて見ていただくと、発見があると思う。自分でも一切、休んでいない30年の月日を一気に見ることが出来る。作家・河瀬直美を感じることが出来る時間になると思う」と特集上映の意義を語る。

初日の24日には「につつまれて」と「萌の朱雀」が上映され、河瀬監督自らが舞台あいさつに立つ。「(自分自身が)現存しているので、トークも含めて、できる限り来たいと思うし、ゲストも呼んでやっていきたい」とファンに直接、自らの言葉で語る機会を積極的に作っていくつもりだ。

「映画監督 河瀬直美」は、年内は24日から27日まで、年始は1月4日から19日まで開催される。プログラムの中でも注目は、26日と1月12日に上映の17年「光」だ。視覚障害者のための映画音声ガイド作りをテーマにした作品のため、聴覚障害者用に日本語字幕をつけたバリアフリー上映として行い、映画の音声を増幅するヒアリングループシステム座席も用意する。1月12日上映回には、主演の永瀬正敏も登壇予定だ。

1月14、18日に上映の14年「2つめの窓」では、英語、中国語、韓国字幕をつけた多言語上映が行われる。1月4日、同15日に上映される「私が強く興味をもったものを大きくFixできりとる」を含む初期短編集も、貴重な作品を見ることが出来る機会だ。

今年、50歳を迎え、10月には東京五輪公式映画の監督就任が発表された。さらに辻村深月氏の長編小説を映画化した「朝が来る」の公開も来年に控えている。節目の特集上映に、河瀬監督は「記録されたものが、こうしてもう1度、見直すことが出来る。見たものがつながっていく…今回の特集上映が1つの作品になる」と、かみしめるように語った。【村上幸将】