2011年(平23)3月に起きた東京電力福島第1原発事故で全町避難が続く福島県双葉町の双葉駅周辺などの避難指示解除が3月4日に決まり、同町が東京五輪の聖火リレーのルートに組み込まれる見通しとなった。福島県を走る公募枠ランナーに決定している同町出身の声優兼女優桜庭梨那(24)が18日、取材に応じた。思い出が詰まった故郷を走りたい-。あれから9年、復興に携わるという夢の瞬間が近づいてきた。

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聖火ランナーに応募した時は、双葉町の避難指示解除時期は未定だった。

「できないことかもしれないけど、記念すべき東京五輪で、聖火ランナーとして双葉町で走れたら最高だなと。それが難しくても福島県内を走れればと思っていました」

すでに福島県内の走行ルートは決まっているが、双葉町も追加される見込み。2月下旬以降に聖火ランナーの走行地域、3月上旬以降に区間が決まる。

「小・中学校の通学路やよく遊びに行った祖父母の家、商店街など、思い出の場所がいろいろあります。やっぱり、双葉町で走れたらと思います」と、地元で走ることを願っている。

原発事故で避難指示を受ける15歳まで、双葉町で生まれ育った。東日本大震災が発生した11年3月11日の午前中は中学校の卒業式だった。同町の高校に進学予定だったが、避難指示から、群馬県の高校を経て、福島県いわき市内の高校に通うことになった。両親や兄、祖父母は今もいわき市内で暮らしている。

高校卒業後、目標の1つだった復興に携わろうと、いったんは公務員として県内で就職した。一方で幼少期から芝居に興味があった。高校では漫画やアニメ好きの友人の影響もあり、声優という職業にも憧れていた。

原発事故で避難する際、やむを得ず自宅に置いてきた飼い猫を忘れられずにいた。「(当時は)すぐに戻れると思っていたので、ずっと後悔していた。それが心残りとして今もあります。今、やりたいことをやらないといけない。教訓です」。一念発起して20歳で上京。声優養成所に入所した。

双葉町の盆踊りの継承にまつわる19年ドキュメンタリー映画「盆唄」(中江裕司監督)に声で出演した。復興に携わりたい気持ちとともに、「震災や原発事故を忘れられたくない」という思いから出演を決めた。

「あんなに大きな出来事だったのに、人々の記憶から薄れていく実感がある。帰れない町があること、帰って頑張っている人が大勢いることを知られないのは悲しいし、寂しいです」

聖火ランナーに応募したのも映画出演時と同じ思いからだった。走行練習はしていないが「(福島県のキャラクター)キビタンを持って走ろうかな」。生まれ育った町で走るイメージを少しずつ膨らませている。【近藤由美子】

◆桜庭梨那(さくらば・りな)1995年(平7)4月14日、福島県双葉町生まれ。福島県いわき市の高校を卒業。17年にDVD「聞く、演じる! 日本むかしのおはなし」で声優デビュー。女優としては18年舞台「幕末異聞 明治悪党奇譚」などに出演。145センチ、血液型A。

◆聖火リレー ギリシャでの採火式を経て、3月26日に福島県「Jヴィレッジ」(楢葉・広野町)の9番ピッチからスタート。グランドスタートの聖火ランナーは、11年サッカー女子W杯ドイツ大会で優勝した「なでしこジャパン」が務める。福島県内聖火リレーは3月26~28日までの3日間。同県公募枠ランナーは58人で、東京五輪男子マラソン銅メダリスト故円谷幸吉さんの無二の友で、メキシコ五輪男子マラソン銀メダリスト君原健二さん(78)も選出された。桜庭は初日の3月26日に走行予定。