世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスは、コウモリが持っているコロナウイルスが野生動物を通じて人間にうつったと考えられています。2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)、12年の中東呼吸器症候群(MERS)もコウモリが原因です。なぜコウモリなんでしょうか。動物から人にうつる病気(人獣共通感染症)を研究している東京農工大の水谷哲也先生に聞きました。

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-なぜいつもコウモリなんですか

水谷先生 ひとつは接触の仕方です。上空から来る。脳炎や呼吸器の病気を起こすニパウイルスという致死性の高いウイルスがあるのですが、果実を食べにきたコウモリがおしっこをして、下にいたブタが感染して、ブタから人にうつります。ウイルスが上から落ちてくるんです。死んだコウモリを野生動物が食べて感染する経路もありますから、上下、横横と2つの感染経路があるんです。

-上からというと、鳥もそうですよね

水谷先生 鳥と違うところは哺乳類ということです。鳥インフルも危ないけれど、人には感染しにくい。哺乳類-哺乳類の方が感染しやすいんです。コウモリはネズミの次に種類が多いんですよ(※ネズミは世界に約1300種、コウモリは約1000種)。いろんなコウモリがいて、いろんなウイルスを持っていると考えた方がいいと思います。種類が多ければ人に感染するものも多くなります。

-未知のウイルスがたくさんあるんですね

水谷先生 コウモリというと、洞窟の中でぎっちりぶら下がっているイメージですよね。外に出てウイルスをうつされて帰ってくるケースもある。ウイルスをインキュベート(培養)しやすい状況にあるんです。

-なるほど洞窟は密閉空間で、多数が集まる密集場所。密接もあるだろうし、3密がそろってます

水谷先生 洞窟の中にいくつもの種類がいてウイルスが回りやすい。コウモリの中で変異して、いろいろな種類のウイルスができるのかもしれません。

-ニパウイルスはブタから人間でしたが、SARSはハクビシン、MERSはヒトコブラクダから人間でした

水谷先生 SARSはハクビシンだけでなくタヌキも感染していました。今回はセンザンコウと言われてますが、もうちょっと結論は待った方がいいです。アナグマ、タケネズミの可能性もあります。コウモリの中で変異したコロナウイルスに野生動物が感染したのか、野生動物に感染することで変異したのかは分かりませんが、その野生動物を人が捕ってきて市場に出したため、広がったのです。【聞き手・中嶋文明】

◆センザンコウ 体がウロコに覆われた唯一の哺乳類で、肉は食用、ウロコは漢方薬の材料として中国で取引されています。アジアに4種、アフリカに4種いますが、すべて絶滅危惧種。「世界で最も密輸されている哺乳類」とも呼ばれています。香港大などのチームが中国に密輸され、押収されたマレーセンザンコウから新型コロナウイルスによく似たウイルスを発見し、科学誌「ネイチャー」に発表しました。日本では上野動物園の「夜の森」にいます。