マスクは手に入るようになったが、消毒用アルコールは品薄状態が続いている。経済活動の本格再開に向けてさらに需要増が見込まれ、政府はマスクに続いて転売禁止にする方針を固めたほどだ。不足解消に貢献したいと、酒類メーカーで手指消毒用の製造の取り組みが広がっているが、医療機関など向けに無償提供する動きも出ている。

 

サントリーホールディングスは、傘下のサントリースピリッツ大阪工場(大阪市)で蒸溜したアルコールの一部(95度の高濃度エタノール)を先月末から、厚労省の供給スキームを通じて医療機関など向けに提供している。製造費用はすべて同社が負担。最初に18リットル入り一斗缶192缶(約3460リットル)を出し、その後も継続している。

同社は、コロナ禍により世界的に原料の需給がひっ迫している状況や無償提供にともない、チューハイ「明日のサワー」や焼酎「大樹氷」などごく一部の商品だが、在庫がなくなった後は生産と販売を一時休止する。わずかに終売の商品もあるという。同工場の上新原十和(かみしんばら・とわ)工場長は「少しでもお役に立てれば幸いです」とコメントしている。

茨城県では、木内酒造の提案にアサヒビールとキリンビールが協力。ビール2社が県内工場から業務用たる入りビール計2万4000リットルを無償提供。木内酒造が蒸留して、70度の消毒用エタノール1260リットルを製造し、県や県内自治体に寄贈する。このビールは飲食店の営業自粛などで出荷が減少して生じた在庫で、有効活用というわけだ。

ほかにも全国各地で、医療機関などで役立ててもらおうと、多量の高濃度エタノール製品を地元自治体などに寄贈するメーカーが相次いでいる。売り上げの一部をコロナ対策に寄付するメーカーもある。

手指消毒液の深刻な状況に、厚労省は今春、医薬品以外の高濃度エタノール製品も代替として使えると認めて供給をうながし、国税庁も対応。多くの酒類メーカーが不足解消のために製造や増産に取り組み、厚労省の要請に応えた優先供給や、一般販売も始めている。しかし緊急事態宣言解除などで今後は一層の品薄も懸念されており、政府は転売禁止に乗り出した。対象にはアルコール濃度が高い酒やアルコールを含む除菌シートなども含む見通しだ。【久保勇人】

 

○…日本コカ・コーラは、手指消毒用のアルコールとして使用できる食品添加物のエタノール製剤を医療機関などに無償提供する。エタノール製剤は一般的に発酵アルコールに有機酸などの添加物を配合したもの。守山工場(滋賀県)で、5月中に約9000リットルを製造予定という。原液などを製造する工場だが、食品添加物製造許可を取得している。製剤は公的団体を通じて寄贈し、一般販売や医療機関への直接の提供はしない。

 

○…コロナ禍で、酒の4月の販売実績は種類によって明暗が分かれている。ビール大手4社の4月のビール類(ビール、発泡酒、第3)は、全社が前年同月比で2桁減となった。ビールが飲食店の臨時休業や外出自粛によって、各社とも50%前後まで落ち込んだことが影響した。たるなど業務用は約80%前後も減少と深刻。節約志向で、割安な第3のビールは増加傾向だ。一方、家飲み需要拡大で、缶など家庭用は好調だ。サントリーの場合、チューハイ類は3月が29%増、4月も18%も増えている。