「せやろがいおじさん」というユーチューバーが、注目を集めている。沖縄のお笑い芸人で、検察庁法改正案に抗議する大規模ツイッターデモのきっかけをつくった1人だ。沖縄の美しい海をバックに、赤い鉢巻き、赤いふんどし姿、コテコテの関西弁で「お~い」と時事問題を叫ぶ動画が、問題の核心をとらえた解説や鋭いツッコミ、分かりやすく楽しい例え話などで共感を広げている。せやろがい!

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おじさんといっても、素顔は32歳の榎森耕助さん。ユーチューブの「ワラしがみ」というチャンネルで1本あたり数分間の動画を公開している。前検事長の定年延長を取り上げた動画では検察の仕事から解説し、閣議決定を「横暴やと思う」と主張。「検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを最初につぶやいた女性会社員も、せやろがいおじさんの動画がきっかけだったという。検察庁法改正案の動画では、問題点を整理・解説し「抗議しとこ~」と叫び、これも分かりやすいと評判になり拡散した。ツイッターデモにも大きな影響を与えたことになる。こんな状況は予想したのだろうか?

せやろがいおじさん(以下、せやろがい) 全くしてなかったです。検事長の定年延長を閣議決定って、すごくイメージしづらいし、自分の生活にどう関わるか分からないから、伸びないだろうなあと、上げた動画なんです。それが問題意識を喚起できて、つぶやいてもらい…非常におもしろい現象が起きたなと、どこか俯瞰(ふかん)で見てました。

難しいニュースやデリケートな問題でも正面から向き合い、柔らかくかみくだき、ユーモアやウイットあふれる表現で包んで問題提起するスタイルが支持や共感を集めている。チャンネル登録者数は29万超、ツイッターのフォロワーも約29万と伸びている。テーマはどう選んでいるのか?

せやろがい 世の中で関心が高いもの、世の中では関心ないけど、これはちょっと大事だなあって感じたものの中で、こういうおもしろい言い回しができるなと思い浮かんだものを選んでいるんです。

5月22日公開の動画「Twitterデモを一過性のムーブメントで終わらすな! 定着させる方法は?」の最後では、あのハッシュタグが大きなうねりになった理由を「言葉がとがりすぎてなかったこと」などと分析した。

せやろがい 今までは「安倍やめろ」みたいな言葉でやられていたんですが、その言葉で声を上げた方々の気持ちももちろん理解できるし、熱を否定する気は全くないんですけど、その言葉に乗っかる勇気は必要なんです。プラス政治のことを話す勇気も必要です。2個ハードルが設けられている状況だったと思います。それに比べて、あのハッシュタグなら乗っかれると広がった面はあるんじゃないかと思います。今、みなさん忙しいし、自分の生活でいっぱいいっぱいだと思うので、勉強しろとか、これを知るべきみたいな同調圧力ではなかなか政治に参加しないと思うんです。だから僕はエンタメをかぶっていることがすごい大事と思っていて、見たら笑えるし、なんかこういうことが起こってるんだという大枠くらいは分かるみたいな。僕も動画をつくる時、そこらは気にしています。

22日の動画では、芸能人の政治的発言について言及したり、選挙での投票を訴えたりした。

せやろがい 芸能人の方が言うことによっていろんな方が関心持つし、芸能人の方たたいていたら誰も言おうと思わへんし、関心を持った人が語りやすいような風潮もつくっていく必要があるし、語った人は最終的に投票行こうよっていう、そんな気持ちであの動画は作りました。それと検察庁法のムーブメントは、一般の方が起こして一般の方の参加で大きな声になった。特別な人だけのものじゃないっていうのも言いたかったです。

奈良から教員を目指して沖縄の大学に進学した。それがなぜ?

せやろがい 大学の先輩がお笑い芸人をやっていて、大学の間だけサークル感覚でやって卒業したら教員になろうと思っていたんですけど、教育実習で教員やめよってなって、芸人の道に。仕事は楽しかったんですけど、4畳一間で、今月の家賃も払えヘん。いろんなバイトもしました。沖縄では実績を残していたんですけど、認知広めてご飯食べていけるような環境をつくりたいなと、ユーチューブを始めました。

なぜ赤いふんどし姿に?

せやろがい 埋もれないように、見た目のインパクトあるものがないかなというときに、そこにふんどしがあったからはいたみたいな感じです。赤いTシャツは、石垣島のフェスの司会をやったときにもらったものです。

時事問題が増え、メインテーマになっていった。きっかけは?

せやろがい 芸能ニュースとか言うようになって意外に広まって、いろいろ声が集まってくるようになって。困っていますとか、大変ですとか。(政治的テーマは)沖縄県知事選がきっかけです。バッシングもいっぱい集まりました。そもそも政治的な発言するな、芸人が何してんねみたいなのがあったり、ファンが離れていったり。それから、何で政治的なことを言ったら怒られてんの、犯罪でもないし、意見を言うだけでこんなたたかれることは意味分からんなあと思って。語りやすいような空気に、ぼくの動画がちょっとでも役立てばいいかなあというのが、モチベーションでやってます。

動画は、ネタを決め台本を用意してから撮影している。幅広い視野やバランス感覚、分かりやすく人に伝わりやすい表現もさえる。一方で批判や反論を受けることもある。気をつけていることは? 勉強はどのようにしているのだろう?

せやろがい 言葉がとがりすぎないように。お笑い芸人として、笑いは必ず入れるようにしようとしています。ちょっとお口直しみたいなところがあると思うんですよ。笑い入っていたら、ちょっとお口爽やかになって、次の一口いけるみたいな。新聞はデジタル版で何紙か取っています。ラジオも結構聴いています。ツイッターとかでフォローしている方が、一言コメントつけて記事を紹介したりしてるんです。こう思うとか、問題でしょとか。これ結構、勉強になります。

最近は安倍首相関連のテーマも多い。どう思っているのだろう?

せやろがい やるやるって言うてなかなか進んでいかないのが、すごくもどかしくて。真摯(しんし)に受け止めたいとか、責任は私にあると言うけど、受け止めた結果何もせえへんし、責任取らへんし、これやるいうても、やらへんし。雰囲気出すのは上手なんやけど、実際やらへんのは、かなわんなと思って。とにかくプロセスを大事にしないのが、問題だなと思っていますね。公文書は破棄するわ、議事録は残さへんわ、口頭で法解釈決裁するわ。いろんな思想を持ってる方いらっしゃると思うんですけど、どの人たちもプロセスをおろそかにしていいと思っている人はたぶんゼロ。ここに関しては、全国民が一致団結できる点かなと思う。突っ込むべきポイントなのかなと思いますね。【聞き手・久保勇人】

【せやろがいおじさんの動画の内容一例】

5月15日公開の「5分で分かる!検察庁法改正の内容と問題点について」

■内閣が黒川氏の定年延長を法解釈の変更で決めたことについて

→ 「このはし渡るべからずっていうルールが設けられている橋に、端がダメなら真ん中を渡ります、言うて、はしの解釈を変えて渡る、みたいな感じや! ひょっとして政権内に一休さんいらっしゃいます?」

■コロナ禍対応について

→ 「ホンマ、補償は遅くて、保身は早い!」

■検察の独立性について

→ 「真っ白なワンピースって、ちょっとでも汚れ付いたら、台無しやん? 検察も同じで、政権に忖度(そんたく)するのでは? という疑いをちょっとでも持たれたら、アカンねや!今回の検察庁法改正案は、真っ白なワンピースの前で思いっきりカレーうどん食うみたいな感じや。アカン!汁跳ねてシミなる!」

5月22日公開の「Twitterデモを一過性のムーブメントで終わらすな!定着させる方法は?」

■今回のツイッターデモを定着させる方法

→ 「ネットで声が大きくなっても、投票率低いままやったら、ネットの声って、票に結びつかないから無視してええやん!ってなってしまいかねん!1回も盗塁したことない野球選手がリーリーリーリーってでっかい声上げてても、どうせこいつ走らんなってナメられるやん?そうならんためにも次の選挙では今回の件を踏まえた上で1票投じに行こ!」

※チャンネル「ワラしがみ」から

◆せやろがいおじさん(リップサービス えもやん) 本名・榎森耕助(えもり・こうすけ)。1987年(昭62)9月17日生まれ、奈良県出身。沖縄国際大卒。沖縄の芸能事務所オリジン・コーポレーションに所属。お笑いコンビ「リップサービス」のツッコミ担当(相方は金城晋也)でもある。コンビでもテレビ、ラジオのレギュラーを持ち、県内の賞レースでも4連覇した。19年10月からはTBS「グッとラック!」に金曜レギュラー出演中。174センチ、76キロ。血液型B。