難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者から依頼され、薬物を投与し殺害したとして、嘱託殺人の疑いで医師2人が逮捕された事件で、女性の遺体から「バルビツール酸系」の薬物が検出されていたことが25日、捜査関係者への取材で分かった。2人は胃に栄養をチューブで入れる「胃ろう」から、薬物を投与したとみられる。2人が女性宅を訪れた際、偽名を名乗っていたことも、捜査関係者への取材で分かった。

医療関係者によると、バルビツール酸系の薬物は依存性や副作用が強く、大量に投与すると呼吸を抑制し死に至ることもある。欧米では、自殺ほう助団体などが使っている。捜査関係者によると、ALS患者の林優里さん(当時51)は、胃に栄養をチューブから入れる胃ろうを造設。嘱託殺人の疑いで逮捕された、いずれも医師の大久保愉一容疑者(42)と山本直樹容疑者(43)は、この胃ろうから薬物を投与したとみられている。

体内から普段使っていない薬物が検出されたことから、京都府警が捜査を始めた。府警は、短時間で現場を後にできるよう、2人が事前に周到に準備したとみて詳しい経緯を調べている。

この薬物について、在宅医療に携わる、ある医師は、普段、患者に夜間ぐっすり眠ってもらうため、座薬タイプのものを使うと話す。「錠剤や粉薬、注射液などさまざまな種類があり、病院勤務医から開業医までよく利用する」。別の医師は「胃ろうに入れたのなら、液状タイプのものではないか」と推測。一方で「呼吸が止まった後、心臓が止まるまでに少し時間がかかる上、体内に残って発見されやすいこの薬をなぜ使ったのか」と首をかしげた。

2人は昨年11月30日、京都市中京区の林さんの自宅を訪れ、嘱託を受けて薬物を投与、急性薬物中毒で死亡させたとして、今月23日に逮捕された。2人が林さん宅を訪れた際に、偽名を名乗っていたことも、新たに判明した。

2人は事件当日に京都市内で合流し、知人を装い、林さんの自宅マンションを訪問。ヘルパーが提示した訪問記録に、それぞれ偽名を書き込んだ。10分程度で部屋を後にし、その日のうちに京都を離れた。別室から戻ったヘルパーが、意識不明となっている林さんを発見。同日夜、搬送先の病院で死亡が確認された。

府警は、2人が身元が発覚して捜査の手が及ばないよう計画的に準備していたとみて調べている。2人は学生時代からの友人だが、大学は別々だった。