コロナから逃避するゴールデンウイーク6泊7日の船旅のはずだった…。乗客の60代男性の新型コロナウイルス感染が確認され、中止を決断して引き返した豪華クルーズ船「飛鳥2」が1日、横浜港大さん橋に到着した。

男性と家族の女性は最初に下船し、隔離措置のため都内へ。症状が確認されていない他の乗客も、順次、帰路についた。また、運航する郵船クルーズは12から18日に神戸港を発着する3クルーズの中止も決定した。

   ◇   ◇   ◇

乗船1週間前のPCR検査で全員の陰性が確認されていた。緊急事態宣言、まん延防止等重点措置により不要不急の外出自粛が求められている中でも、万全を疑わなかった。「ステーキもアワビも絶品だった。久しぶりに最高の時間だったのに、あっという間に終わってしまった」。乗船客の1人は、下船後の取材にそう答えた。

陸の上では、国や都道府県の要請に従い、休業、営業時間短縮、終日の酒類提供停止を実行している飲食店等も多い。しかし、関係者によると「船の上は対象区域外なんです」。4月29日の午後5時、乗船前にも検査を受けて出発。感染対策をしたうえで、路上ではダメな酒も船上では飲み放題。時間も気にすることなく食べ放題の日々が続くはずだった。翌30日午後3時前。船内放送で「コロナ感染者が確認されました。お部屋で待機してください」。至福の時が一転、“緊急事態”に陥った。

長崎県から夫婦で乗船した50代女性は「残念ですが、誰も悪くない。コロナが悪い」。本来は、青森、函館、釧路を巡る旅だったが、満喫したのは「1、2日」。残りは部屋に隔離され、食事はデリバリー形式に代わり、外部との接触は担当者が体調変化や要望を尋ねる電話だけだった。「他にも感染してしまった人がいなかったか、少し心配」と羽田空港に向かった。

昨年11月から日本各地でクルーズ船の運航が再開して以降、初の感染者確認となった。郵船クルーズはコロナ対策として、乗客数を定数の半数以下に制限し、今回は302人に。密集状態が懸念されるイベントも中止していた。坂本深社長は「ご迷惑を掛け申し訳ない」と謝罪した上で「(集団感染があった)ダイヤモンド・プリンセスの件から学んでいたため速やかに対応できた」。航路中の拡大阻止には一定の手応えを得ていたが、果たして最善だったのか。

変異株拡大により、今回の運航から乗船直前にもPCR検査を実施することを追加。だが、陰性を確認する前に出航したことでトラブルが生じた。濃厚接触者ではないとされた乗客は再検査は受けておらず、経過観察は続くが、現段階で無症状でも、感染していないとは言い切れない。多くの乗客は公共交通機関で家路に就いた。【鎌田直秀】

◆飛鳥2 日本最大の豪華クルーズ客船。就航は06年2月。乗客定員は872人。客室は436部屋全室が海を望み、約半数はバルコニー付き。全長241メートル、全幅29・6メートル。総重量5万444トン。航海速力は最高21ノット。乗組員は約490人。全9層のデッキ最上階にはスパや露天風呂、フィットネスセンターも。今年10月までに50クルーズ以上を予定。今回の「青森・北海道クルーズ」料金は、2人1室利用で1人39万8500円から181万4000円(税込み)。数多くのイベントに加え、結婚式や記念日の催しも可能。22年には41日間のオセアニアグランドクルーズ、107日間の世界一周クルーズも予定。

○…昨年1~2月のクルーズ中に新型コロナウイルスの集団感染を起こし、乗客3711人のうち712人が感染し、13人が死亡したダイヤモンド・プリンセス号はその後は、クルーズは行っていない。今年7月から再開予定だった21年度の日本発着クルーズ予定も4月15日に中止すると発表。同日、22年度の日本発着クルーズの販売を始めている。