東京五輪の聖火リレーは6日、熊本県で続いた。南阿蘇村では河津謙二さん(57)がトーチを握って笑顔で沿道に手を振った。「都合の悪い方がいて、急きょ2区間を走ることになった。さすがにトーチを重く感じた」と持ち手を入れ替えながら約400メートルをゆっくりと走った。

南阿曽村で江戸時代から続く旅館「地獄温泉 清風荘」を営んできた。河津さんは3兄弟で旅館を切り盛り。河津さんは次男で副社長。長男誠さん(58)が社長、三男進さん(55)は専務で支え合ってきた。

2016年4月の熊本地震で建物が瓦解(がかい)し、さらに2カ月後の豪雨の影響による土石流に襲われ全壊した。

もう営業再開できないと覚悟したが、自衛隊の救助チームが到着し「荷物1つだけを持って避難します」と指示されたときに河津さんは荷物を取りにいくついでに加温加水せずに源泉で入浴できる「すずめの湯」の確認をした。「ぶくぶくと湯がわき上がっていた。この湯さえあれば再起できると確信した」と、19年に日帰り湯として再開し、宿泊も昨秋から復活した。

聖火ランナーには、学生時代からサッカー部で鍛えて運動好きな河津さんが3兄弟を代表して走ることになった。「兄はリーダーでまとめ役、弟は和食職人で、私がその他全般で汗をかく。3人で一人前なんです」と笑い「なんとか宿泊までできるようになったのは、全国から駆け付けてくれたボランティアのみなさんの協力があってのこと。この聖火リレーではその感謝の気持ちを伝えたかった。しかし、距離が長かった」と目尻をさげた。

2年前の日帰り入浴再開時から「清風荘」から「青風荘」に名称変更した。「土石流もあったし、お湯は残ったから水はもういいな、と。山の中で緑がいっぱいなので“青”を際立たせたかった。それと、私たちの名字が河津なので、もう“さんずい”は足りているんです」と新生「地獄温泉 青風荘」の理由を語ってトーチを優しくさすった。【寺沢卓】

▼6日の聖火リレー 熊本県2日目で5年前の熊本地震で甚大な被害を受けた益城町、南阿蘇村を走り抜け、最終8区の熊本市では熊本城の周回コースを五輪3大会出場を果たした陸上短距離の末続慎吾さん(40)がアンカーを務めた。7日は離島の多い長崎県に入る。壱岐、五島は7日、対馬は8日に巡る。まずは7日南島原市からスタートし、最終8区の長崎市では市街を走らず無観客になるが女優の石原さとみ(34)、新国立競技場の設計を手掛けた建築家隈研吾さん(66)、ニュースキャスターのタレント草野仁(77)らもトーチを握る。

▼福岡県は公道回避 福岡県は6日、県内で11~12日に予定している聖火リレーを、福岡市、太宰府市など7市町の公道では実施しないと発表。今後、調整を図る。