東京・築地で開業から111年の歴史を誇るペストリーショップ「築地木村家」が閉店した。最終日はあんぱんやカレーパンを焼き続け、約4600個を完売した。店先では終日行列の絶えなかった。「最後までお客さんに並んでいただいたのは木村家の誇りです」と4代目内田秀司社長(55)も満足の表情で竃(かま)の火を落とした。

最後の日、パン工房は12時間以上動き続けた。前日16日、6種のあんぱんとクリームパン計2140個をあらかじめ焼いて準備。17日当日はあんぱんとカレーパンを約1000個ずつ作った。予定していた約4000個は正午前に売り切れとなり、「こんな勢いで売れるとは、本当に驚いています」と内田社長は目を丸くした。

午前7時の開店前にはすでに12人が並び、先頭の川出貴弘さん(48)が自宅の町田市を同5時17分発で出発した。「子ども6人なんです。カレーパン10個がノルマ。あんぱんも買えました」とホクホク顔だった。テレビの生中継で閉店を知り創業76年の焼き菓子「銀座ベーカリー」宮本浩明代表(53)も駆け付け「いち大事ですよ。とにもかくにもあんぱんとカレーパン。なんとか手に入れられた。なくなるのは残念」と唇をかんだ。

50種以上のパンを常備していたが「1人でも多く木村家の味を記憶に残してほしい」という内田社長の一心で食パン製造を9日で終わらせ、人気のシベリアも14日で終売した。最後のあんぱんを手渡した内田社長は「おしまいです。ありがとうございました」。涙なく笑顔で111年のピリオドを打った。【寺沢卓】