政治家やキャラクターの面白いラバーマスクを製造し販売するオガワスタジオ(さいたま市)が年内でマスク製造を中止することが7日、同社への取材で分かった。新型コロナウイルスの感染拡大で、売り上げが激減した。

名物の政治家シリーズで最後の作品になったのは国外ではバイデン米大統領(78)、国内では菅義偉首相(72)。今月行われる総裁選(17日告示、29日投開票)で選出される新総裁のマスクは作ることができないまま、幕を閉じることになった。

オガワスタジオは7日、ツイッターで「9月末までで『ラバーマスク・かつら』のご注文を最後とし、その後10月~12月までに作製・納品させていただきます」と告知。ラバーマスクの製造販売の終了を告げた。

工場を併設したさいたま市の本社に田中尚生社長(61)を訪ねると、工場のラインはストップしていた。すでに受注してある分の生産は終了したといい、追加注文があれば、ラインを稼働させるという。「本来なら11月のハロウィーンや忘年会に向けて忙しいはずなんですが」と田中社長は肩を落とした。

総裁選不出馬を表明した菅首相はすでに約900個作ってしまっており、200個ほどの在庫が残っている。菅氏の退場で盛り上がりを見せている総裁選だが、新総裁のマスクは作れないといい、田中社長は「もう作りません。河野(太郎行改相)さんは特徴があるし、作りがいあるなぁ」と名残惜しそうに語った。スガノマスクに続く「コウノマスク」は幻となった。

総裁選レースでは最も早く出馬表明をして、具体的な施策を打ち出している岸田文雄前政調会長については、田中社長は「イマイチ特徴が見当たらない。もしつくるとなったらそれなりものはできるだろうけど、作品にするまで苦労しそうでしたね」と話した。

コロナ以前の2019年までは、注文は7月末から8月に集中し、この時期だけで約1000万円の売り上げがあった。

田中社長 マスクの場合、ハロウィーンからがシーズンインで、忘年会、クリスマス、大みそか、正月から節分までは勢いが続くんです。

しかし、昨年から新型コロナの感染拡大で、マスクが活躍するはずのパーティーや宴会、屋外イベントなどが一気になくなった。20年の同時期の注文は500万円台で頭打ち。今夏の注文はさらに下落して300万円に届かなかった。

田中社長 500万円の売り上げがあれば、材料調達や人件費をまかなえて、なんとか微々たるものですが利益も出る。300万円では会社として運営できない。私が社長になったのも在庫を抱えずに受注運営で損益を出さない方法論を考えるのが主たる目的でした。

東京五輪にも大きな期待を寄せていた。海外からの観戦客に東京のお土産として購入してもらうインバウンド需要を期待したが「すべてはコロナにやられてしまいました」(田中社長)。ラバーマスクはインターネットを通じて海外からの需要もあったが、パンデミック下では、国外需要も国内と同様で、この2年目減りしていった。

ホラー系や日本独特の芸者などのかつらも手掛けたが、公職で版権の発生しない政治家のマスクは大人気だった。5000個以上が売れた小泉純一郎元首相が最初で、その次が当時外相だった田中真紀子氏だった。麻生太郎財務相は首相時代に3000個以上売れた。小池百合子都知事は初当選の16年8月から1カ月間1000個売れたがその後は売れ行きが鈍ったという。海外では米オバマ大統領が最も人気が高くて就任1年半で約3万7000個、トランプ大統領は2万個を売り上げた。

中には人気がなかったマスクもある。国内の政治家では舛添要一元都知事が300個程度と低調だった。最も売れなかったのは最新作のバイデン大統領。「すごく良くできていて自信作だったんですが、200個ぐらいつくって、まだ60個ほど余っている」(田中社長)という。【寺沢卓】

◆オガワスタジオ 1905年(明38)創業の玩具製造会社。当初は風船を製造していたが、1970年代に、米映画「猿の惑星」シリーズの猿のラバーマスクがヒットし、ラバーマスク製造が主軸に。型からすべて手作りで、塗装は職人が1つ1つ手作業で丁寧に仕上げる。2015年3代目社長だった小川博久氏が死去。親族で特殊鋼材、レアメタル(希少金属)などを扱う総合商社「ハヤカワカンパニー」社長の早川元章氏が受け継ぎ社長に。今年7月に田中尚生氏が引き継いだ。今後、ハヤカワグループの一員としてオガワスタジオのブランド名は残り、造形作品を作る集団となる。さいたま市大宮区堀の内町1-86。