菅義偉首相の後継を決める自民党総裁選の投開票が29日行われ、岸田文雄前政調会長(64)が第27代総裁に選出された。本選では優位と予想された河野太郎行革相(58)を岸田氏が1票上回ってトップに立ち、高市早苗前総務相(60)と野田聖子幹事長代行(61)が脱落。過半数を獲得に至らず、上位2人による決選投票では、岸田氏が257票で170票の河野氏を圧倒した。岸田氏が多くの議員票を集めた背景には、高市氏との好連携が大きく影響した。新総裁は10月4日召集の臨時国会で首相指名選を経て、第100代首相に就任する。

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岸田新総裁の誕生は「岸田・高市連合」が産声を挙げた瞬間でもあった。投開票会場で新総裁と3候補、菅首相の記念撮影が行われた。撮影前に岸田氏は高市氏と笑顔でグータッチを交わした。岸田氏は「総裁選は終わった。ノーサイドです。全員野球で自民党が一丸となって次期衆院選に臨む」と党内融和を唱えた。その岸田氏の報告会に高市氏がサプライズ登場。「4人でツアーのようにテレビ局を一緒にまわっていると、だんだん愛情が沸いて来て(笑い)、離れがたい気持ちになってきた」と、蜜月をアピールした。

決選投票へ向けて両陣営は前日28日午後からトップレベルの調整を進めた。岸田氏が決選投票に駒を進め、高市氏が敗れた場合に決選投票で高市陣営は岸田氏支持で合意し、本選で高市氏が獲得した議員票114の大半は岸田氏に流れた。

選挙戦の最終盤で、高市氏陣営は支持を決めかねている議員の切り崩しに成功した。対象議員の個別データを基に高市氏自身が電話でアプローチする戦術を展開した。用件は留守番に一切残さずに、相手が根負けするまで直接対話で説得した。これが功を奏し、本選で河野氏が議員票86票で、まさかの3位にも「想定よりも減ったが驚きはない」(高市陣営)と言い切った。

高市氏は本選で計188票と2強に迫った。その裏にはフィクサーを目指す安倍晋三前首相の暗躍があった。安倍氏は高市氏支持を表明し、20人の推薦人確保に影響力を発揮した。総裁選中に当選3回以下の若手議員が中心で派閥横断した約90人が「党風一新の会」を立ち上げたが、中堅議員は「安倍さんが動いている」と語った。

自主投票を掲げる若手グループの幹部に対して、立候補者の1人が支持を打診すると「実は、もう派閥で決まっている」と語ったという。本選では派閥を横断した自主投票が主流とされ、河野氏を支持する動きが脚光を浴びた。だが、実際には本選から従来の派閥の力学で支配され、最終的に安倍氏の影響下にある高市氏と岸田氏によるタッグが誕生した。

党改革を巡って役員任期を「1期1年、最長3年」と公約に掲げた岸田氏に対し、二階俊博幹事長は反発した。だが、二階派も最後は岸田支持と河野支持で割れた。退任する二階氏の求心力低下で「空中分解だ」(元閣僚議員)と指摘されている。今後、焦点の役員人事を含め、総裁選を引き金に派閥は分裂再編へ動きだそうとしている。【大上悟】