文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が、映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)の製作会社スターサンズが助成金交付内定後に下された不交付決定の行政処分の取り消しを求めた裁判で、不交付決定処分の取り消しを命じる判決を下した東京地裁判決を不服とした、第2回控訴審が23日、東京高裁で開かれた。弁論はこの日で終結し、22年3月3日に判決が言い渡される。

映画の本編が完成した19年3月12日に、出演者のピエール瀧(54)がコカインを使用したとして、麻薬取締法違反容疑で逮捕。製作側には、同29日に芸文振から助成金(1000万円)交付内定の通知が送られていたが、同4月24日の試写後、製作側は芸文振関係者から瀧の出演シーンの編集ないし再撮の予定を問われ、製作側はその意思がないと返答した。

同6月18日に瀧が懲役1年6月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡されると、同28日に製作側に芸文振から不交付決定が口答で伝えられ、同7月10日付で「公益性の観点から適当ではないため」との理由で不交付決定通知書が送られた。

その後、芸文振は同9月に助成金の要項を改訂し、公益性の観点から内定の取り消しが出来るとした上、助成金の募集案内にもスタッフ、キャストが重大な刑事処分を受けた場合は不交付、不交付の可能性があるとの一文が記載された。

スターサンズ側は、20年2月25日の第1回口頭弁論から一貫して「公益性の観点から適当ではないため」との理由による芸文振の不交付決定を、行政裁量の逸脱、乱用だと主張。また芸文振が、映画を作る権利自体を制限する処分(規制行政)ではなく、映画が19年9月27日に公開できたという事実をもって、処分と

憲法上の問題が無関係だと主張していること、映画の交付時には1つもなかった追加の改定についても疑問を呈し、重要な争点としていた。

映画の製作会社スターサンズの弁護団の四宮隆史弁護士は「芸文振の主張としては、行政機関である以上、文化芸術の発展だけでなく薬物乱用の防止も公益に含まれると言う。こちらは、文化芸術への助成は、いかに文化の多様性、表現活動の自立性を守るのが公益だと反論し、ずっとやりとりしています」と現状を説明。その上で「文化芸術の政府に対する助成は、世界的に見ても慎重にならなければいけないというのがスタンダード。1審で裁判所は(映画、文化の)自主性を尊重した。今回は文化芸術の発展だけではなく、広く公益を守らなければいけないというので、戦っています」と語った。

スターサンズの河村光庸代表は「向こうからの訴状を見て、文化庁の存在意義、文化の多様性を否定し、文化芸術の創造性まで否定するような、独自性を無視することを秘めた訴状だとビックリした」と、改めて失望感をあらわにした。その上で「私が向こうに意見を求めていた、文化芸術における公益性とは何か、1歩譲って公益性とは何かについては一言も言わず、よく分からないことを言っている」と首をかしげた。その上で「来年は憲法論議が盛んになると思う。つまり、公益性が何かを考えなければいけない年になる。その裁判で、どう決着が付くかが問題」と訴えた。