北京オリンピック(五輪)開会式の演出で披露された「笑顔の傘」をライフワークに、世界各地で活動を続けるアートディレクター水谷孝次さん(71)が、今年3月末までアラブ首長国連邦(UAE)で開催されたドバイ万博に参加した際、ウクライナへの平和を願う世界の声に接した現地での様子を明らかにした。

水谷さんは今回、主宰する「メリープロジェクト」とともに、2025年に日本で行われる大阪・関西万博に向けたPR活動の一環で、ドバイ万博に参加。世界中の子どもたちの笑顔がプリントされた「笑顔の傘」や、大阪・関西万博のロゴマークの傘を手に、万博会場のシンボル・アルワスルドームから日本館までパレードし、来場者に平和のメッセージを伝えた。日本館前では参加者とともに笑顔の傘を開き、ドバイ万博から大阪・関西万博に向けて、笑顔のメッセージを発信した。

またマレーシア館とのコラボで実現したたこ揚げのほか、折り鶴など日本の文化を世界中の子どもたちに体験してもらうことでも、大阪・関西万博への機運の盛り上げに一役買った。

一方、ドバイ万博は開催中の2月24日に、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、戦時下の中で行われた万博でもあった。戦争が始まると、ウクライナ館の中は、世界中の人々からの「平和」と「自由」を求めるメッセージを、参加者が紙に書いて壁に貼り付けていくプロジェクトがスタート。日を追うごとに1階から4階までの壁が埋め尽くされ、それだけで「コミュニケーションアート」になっていたといい、水谷さんは「入った瞬間に、胸がいっぱいになった」と話す。

笑顔を通じて世界平和を願う「メリープロジェクト」として、メッセージとともに折り鶴を貼ると、背後から「サンキュー」と、ウクライナ人の母子に声をかけられた。この母子は、日本の折り鶴の意味を知っており「平和を願ってくれてありがとう」と声をかけられたという。水谷さんやスタッフは「2025年大阪関西万博でまた会いましょう」と言って、別れた。

万博の最終日、このメッセージカードは数万枚を超えたといい、今後、前線の兵士やウクライナ国民を勇気づけるために活用されるそうだ。

水谷さんは、かつてチェチェン紛争さなかの2004年8月から9月にかけてロシアを訪れた。その際、戒厳令が敷かれるモスクワで、「こんな時だからこそ」というサポートもあって現地で子供たちの笑顔を撮影した経験がある。一方、現在ウクライナでは多くの子供たちが犠牲になっている。

「笑顔はみんな美しい。希望ある子どもたちの笑顔を未来につなげるためにもみんなでアイデアを出し、協力して地球を進化させていかなければいけない」と訴えた。

2025年の万博の開催地、大阪は「笑いの街」。水谷さんは「まさに「笑顔」は大阪の文化。笑顔の力は、人々を元気にするし、相手を笑顔にすることは日本の心=おもてなしにもつながる」と話す。それまでに、世界で子供たちの笑顔の数が少しでも増えるように。水谷さんの願いだ。