山口県の阿武(あぶ)町が、新型コロナ禍対策の臨時特別給付金10万円をめぐり、対象の463世帯分に相当する計4630万円を誤って町内の男性(24)に振り込み、返還を求めて提訴した問題で、男性が「金は海外の複数のインターネットカジノで全部使った」などと説明していることが17日、分かった。男性の代理人弁護士も認めた。町側は、金の流れ、使途の解明や、回収に全力を尽くす構えで、刑事告訴も検討している。前代未聞の誤給付問題は、一層混とんとしてきた。

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阿武町から男性に、正規の10万円とは別に4630万円が誤って振り込まれたのは、4月8日。町によると、約2週間後には、振り込んだ指定口座から金がほぼなくなっていた。男性は「金は海外の複数のネットカジノで全部使った」などと説明しているという。花田憲彦町長は「事実であれば許せないという気持ち」と発言。中野貴夫副町長は「そうですかと引き下がるわけにはいかない。金の流れや使途を解明し、取り戻せるよう全力を尽くす」と語った。町は近く刑事告訴する方向で検討している。

男性の代理人弁護士は、事実かどうかまだ確認していないとした上で、男性の説明内容を認めた。弁護士は16日の会見では「本人からはスマートフォンの操作で送金と聞いている」「何か財産的価値のあるものが手元に残っている状態ではないと聞いている」などとし「返還が難しい状態になっている」との見通しを示していた。弁護士を以前から知っていた男性から連絡があり、13日に初めて面会して代理人になった。男性は4月と5月の2回、県警の任意聴取を受け、スマホは任意で提出しており、返還されていない。男性とは連絡は取れる状態という。

男性は20年10月、町の空き家バンク制度を利用して県内から移住し、1人暮らし。隣の萩市内の店舗で販売員として働いていたが、騒動で辞め、自宅も不在のもよう。

町は4月1日に臨時特別給付金の対象の463世帯と、振込先を記録したフロッピーディスクを金融機関に提出し、正規の手続きを進めていた。しかし同6日に職員が名簿の一番上にあった男性の名前と4630万円の金額が記載された振込依頼書を誤って金融機関に提出。金融機関は同8日、463世帯に10万円ずつ振り込み、男性には別に4630万円も振り込んだ。

町は、同8日午前、振り込み後に金融機関から確認があり、事態を把握。ただちに男性宅を訪れて謝罪し、返還を求めた。男性は返還手続きに同意し、職員とともに本人の取引銀行に車で移動したが、入り口で「今日は手続きしない」と一転拒否。男性は、その日から多額の金を動かし始め、約2週間後にはその口座からほぼ金がなくなっていた。男性の説明が事実なら、この間にネットカジノ側に金を動かしたことになる。

町は同14日に男性の勤務先で母親とともに面会したが、男性は役場の非を指摘し弁護士と話すと主張したという。同21日、町側が男性宅を訪問すると、男性は「もうお金は動かした」「元には戻せない」「どうにもできない」「罪は償います」などと話したという。町は12日に弁護士費用など含め計約5116万円の支払いを求めて提訴した。

◆阿武町 日本海に面し、萩市に隣接。人口3089人、1528世帯(22年3月末現在)。面積約116平方キロ。農林水産業が中心。