勝俣恒久元会長ら東電の旧経営陣3人に、東京高裁が無罪判決を下したことに、検察官役の指定弁護士らから怒りの声が上がった。

指定弁護士は、最大の争点となった「長期評価」の信用性をめぐり、長期評価の策定にかかわった専門家の証人尋問を求めたが、高裁は認めなかった。福島第1原発での裁判官の現場検証も「必要性がない」として行われず、控訴審はわずか3回で結審した。

判決後、指定弁護士は「長期評価の信頼性を全面的に否定した本日の判決は、到底容認できない。長期評価の全面的否定は最高裁もしていない」とコメントを発表し、「証拠申請を却下しておいて、証拠不十分というのは非常に問題ではないか」と批判した。昨年7月の株主代表訴訟は、同じ証拠で旧経営陣に13兆3200億円の巨額賠償を命じている。高裁はこの判決も証拠採用しなかった。

指定弁護士は「現場に行けば一目瞭然で、現場に行くべきだった。民事の裁判官は現場に行っている」と高裁の姿勢を批判。「まさに政治的判断だと思う」と話した。指定弁護士は最高裁への上告を検討している。

福島原発告訴団・刑事訴訟支援団も判決後、会見し、「地震学は可能性は否定できないという消極的予測しかできない。現実的な可能性を求めるのは、ないものねだりで、地震学に無知な原発事故誘導判決だ」と批判した。結果回避可能性についても「確実に防げたことの立証を求めているが、立証しようとした指定弁護人の申請を却下しながら、立証がなく、後付け講釈だと言っている。最初から結果ありきの判決」と批判。「このような判断を確定させてはならない」と、指定弁護士に上告を求めた。

 

◆強制起訴 選挙権を持つ国民の中から選ばれた11人の検察審査員で構成される検察審査会は、検察が不起訴とした事件について審査する。「起訴相当」と議決すると、検察は再捜査しなければならない。検察があらためて不起訴としても、再度「起訴すべき」と議決すると、裁判所が指定した検察官役の弁護士が強制起訴する。09年に導入され、これまで10事件14人が強制起訴されたが、有罪が確定したのは2事件2人。有罪立証のハードルは高い。