最大震度7を観測した能登半島地震を受け、防災への意識が高まっている。近年は日常時と災害時の隔てをなくす「フェーズフリー」という考えを売りにした防災グッズが続々と登場。普段使いのものが、いつどこで起こるか分からない災害時にも役立つ。「備えない防災」とも言われる新しい商品を探った。【沢田直人】

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健康や暮らしに役立つ商品を販売する「ドリーム」(名古屋市東区)はクッションと寝袋が一体となった「SONAENO クッション型多機能寝袋」(税込み1万2800円)を販売している。普段はクッションとして使えるが、中を開くと顔まで覆える寝袋になる。足部分のファスナーを開けて立てば、着替えや授乳時の目隠しにも役立つ。

色は「オリーブグリーン」と「ダークグレー」の2色展開。避難所で女性や子どもが使用しているなどとわからないよう目立つ色を避けている。担当者によると、21年1月から発売し累計約6万個が売れた。また、1日の地震を受け、災害地域の親戚や友人に送る人もいたという。

健康雑貨などの製造会社「アルファックス」(大阪市中央区)が販売している「防災ルームシューズ ITSUMO(イツモ)」(税込み2750円)は、ガラス片などから足を保護する室内用スリッパ。ポリエステル多層構造加工の中敷きがくぎやガラスの貫通を防ぐ。23年7月から販売を開始。能登半島地震発生から1週間で、前月の販売数の2倍ほどが売れたという。

ネットワーク機器を扱うエレコム(大阪市中央区)は23年7月に「枕元ライト」(販売価格税込み3980円)を発売。単3形乾電池4本で使用することができ、日常時は枕元ライト、災害などの非常時には懐中電灯とスマートフォンの充電器としても活躍。枕元ライトは3段階の明るさが調整可能で、懐中電灯は万が一の事故などに備えて「SOS」のモールス信号パターンを点滅するモードを搭載している。

日用雑貨を販売する「コジット」(大阪市西区)の「COGIT防災 座れる玄関防災バッグ」(税込み1万3200円)は普段は玄関チェア、災害時にはリュックに変身する2WAY仕様。機能性とインテリアを兼ね備えており、クッション入りの座面で、耐荷重は約100キロ。底から約10センチが防水仕様で、2リットルのペットボトルが6本入り、容量は約24リットルの防災バッグとなっている。

創業80年のかばん材を扱う朝日加工(大阪市中央区)は22年春に「ペット防災×アウトドア」をコンセプトにしたペット用品ブランド「PFI-PET Friends Industry-」を設立。ペットとのいつものお出かけが避難訓練になる「PFIキャリーバッグ」を販売した。

ペットが入るスペースは「ばね式フレーム構造」の拡張機能付きで、広げると広さは約2倍に。バッグ底面のマットはポケット付きで、暑いときは保冷剤を、寒いときにはカイロを入れられる。バッグの内側には抗菌剤を練り込んだ繊維に消臭加工した生地を使用。避難所でもペットのにおいを気にすることのない環境を作ることができる。

■備蓄品だけじゃない 気楽に食べられる

非常食にもフェーズフリーの考えが広がっている。長期保存食のトップ企業「尾西食品」(東京都港区)が販売している「アルファ米ごはんシリーズ」は水やお湯でふっくらとしたご飯が出来上がる。23年8月に新製品「尾西のレンジ+(プラス)」の販売を開始。これまでの作り方に加えて、電子レンジで調理できる機能を加えた。日本初の電子レンジ調理可能なアルファ米を実現、食品産業技術功労賞を受賞した。

担当者は「これまでのアルファ米シリーズは備蓄品として、押し入れの奥の方にしまわれていましたが、レンジが使えるようになったのでぜひキッチンのパントリーに置いて欲しい。災害時だけでなく、体調が悪いときや何もしたくないときに気軽に食べていただきたい」と話した。「レンジ+」の味は五目ごはん、ドライカレー、チキンライス、赤飯(いずれも税込み410円)山菜おこわ(同453円)の5種類を展開している。今後はさらなる新商品を検討しているという。商品の賞味期限はいずれも製造から5年6カ月となっている。

◆フェーズフリー 防災の専門家として活動を続けていた佐藤唯行氏が14年に提唱。大規模な災害が多発する日本で、災害に備える習慣がなかなか根付かないことに着目し発想を転換。「平常時」と「災害時」の境をなくし、どのような状況下でも命や生活を守れるようにすることをフェーズフリーと名付けた。フェーズフリー協会を立ち上げ、被害に遭って苦しむ人を少しでも減らすことを目指し、普及と啓発をしている。