全国の書店員が最も売りたい本を選ぶ「2024年本屋大賞」が10日、東京都内で発表され、宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」(新潮社)が選ばれた。

作品は、滋賀県大津市が舞台。閉店間際のデパートを映す生中継に毎日映り込んだり、「M-1グランプリ」に出場したりと、マイペースな行動を通じてさまざまな人との出会う主人公の中学生・成瀬あかりを描いた青春群像劇。宮島さんにとっては今作品が、デビュー作となる。

宮島さんは、作品に登場する主人公・成瀬と幼なじみの島崎が結成する漫才コンビ「ゼゼカラ」の水色のユニホーム姿で受賞スピーチに登場。「膳所から来ました宮島未奈です。滋賀のみなさん見てますか。成瀬が取りました」と、呼びかけた。「インタビューに答える時や人前に立つ時に着ようと思っていた。最初は、なぜユニホームを着ているだろうという目で見られたこともあったが、いまでは私が説明する前に『ゼゼカラ』のユニホームと気付いてくれる方が、増えてきている。本屋大賞を受賞したことで、ますます多くのみなさまに成瀬と出会っていただけるのがとても楽しみです」と笑顔をみせた。

「作品の中で『ゼゼカラ』は、M-1グランプリに挑戦する。私は本屋大賞もM-1グランプリのようなものだと思っている」と述べ「優勝したコンビがずっとM1王者と呼ばれるように、本屋大賞を受賞した作家も本屋大賞を受賞した作家とずっと呼ばれる。私もこれからその看板を背負っていくと思うと、身が引き締まる思いです」と語った。

受賞作品の第1話「ありがとう西武大津店」は2021年「女による女のためのR-18文学賞」を受賞した。その賞の選考委員、三浦しをんさん、辻村深月さんも本屋大賞を受賞しており、宮島さんは「とても光栄で、奇跡みたいなこと」と喜んだ。「コロナ禍に小説家人生がスタートした私には、こうして多くの皆さんにお祝いしていただけたことがとても感無量です。たくさんの人にこうしてお祝いしてもらう未来があったのだなあと、とても驚いている」と口にした。

「成瀬も作中で『先のことは分からない』といいますが、私もこんなことになるとは想像していなかった。これからの1年間も、今の私には想像できないことがいっぱいあると思うが、成瀬と一緒ならきっと大丈夫。読んでくださったみなさん、投票してくださった書店員のみなさん、本当にありがとうございました」と、感謝の言葉で締めくくった。

宮島さんは1983年、静岡県富士市生まれ。現在、滋賀県大津市在住。京大文学部卒。2021年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。2023年、同作を含む『成瀬は天下を取りにいく』でデビューした。

昨年の本屋大賞は、凪良ゆうさんの「汝(なんじ)、星のごとく」(講談社)が受賞した。凪良さんはこの日の授賞式に登場し、宮島さんに花束を渡した。

今年の「本屋大賞」ノミネート作品は次の10作品。

◆黄色い家(中央公論新社)川上未映子

◆君が手にするはずだった黄金について(新潮社)小川哲

◆水車小屋のネネ(毎日新聞出版)津村紀久子

◆スピノザの診察室(水鈴社)夏川草介

◆存在のすべてを(朝日新聞出版)塩田武士

◆成瀬は天下を取りにいく(新潮社)宮島未奈

◆放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件(ライツ社)知念実希人

◆星を編む(講談社)凪良ゆう

◆リカバリー・カバヒコ(光文社)青山美智子

◆レーエンデ国物語(講談社)多崎礼

一方、翻訳小説部門は、ファン・ボルム著、牧野美加訳の「ようこそヒュナム洞書店へ」(集英社)が、発掘部門は井上夢人さんの「プラスティック」(講談社文庫)が、それぞれ選ばれた。