ドナルド・トランプ大統領(78)の2期目が始まって、まだ約50日しかたっていませんが、その言動は世界を激震させ続けています。
洪水のように大統領令を出し、猛烈なスピードで公約に次々に着手。「米国第1主義」に徹し、従来の米国を一変させました。なぜ急いでいるのか、何を目指しているのか─。日本人の生活にも決して無縁ではないトランプ2・0。米国政治が専門の日本国際問題研究所・舟津奈緒子さんに聞きながら、50日間で見えてきたことを考えてみます。
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-トランプ氏は3月4日、連邦議会で行った施政方針演説で「米国は戻ってきた。我々は43日間で、ほかの政権が4~8年で達成した以上のことを実行した」「100近い大統領令に署名し、就任からの1カ月間は、この国の歴史上最も成果のあった1カ月だ」と切り出しました。大統領令の数はすでに、1期目の1年目を上回っています。内政面では、不法移民対策、多様性の否定、連邦政府の効率化や官僚のリストラ、〝イエスマン〟人事などで、閣僚、連邦政府、軍、企業などすべてを掌握していっているようにみえ、メディアも言うことを聞かない社は取材させないなどコントロールしようとしています。どんな狙いがあるのでしょう
舟津さん トランプ氏は、予想を上回る圧倒的スピードで、連日、次々と政策を実行しています。とにかく早く世論を圧倒したい、主導権を握りたいという狙いだと思います。背景にあるのが、米国の保守とリベラルの政治的分断です。両者が和解するのはほぼ不可能で、バイデン政権は融和を目指しましたが、うまくいきませんでした。トランプ氏は、分断解消を全く考えていないように見えます。自分たちの支持者を固め、そこに強くアピールしつなぎとめることによって今の優位を維持したいという方針が現れていると思います。
大統領令を乱発しているのも、政治的分断の中、いちいち議会に諮っていたら何も進まない状況だから。訴訟も起こされていますが(出生地主義の否定、対外援助凍結など)、猛スピードで、世論を圧倒したいという思いが伝わってきます。
-1月の就任演説でも今月の施政方針演説でも、バイデン氏を「史上最悪の大統領」と呼ぶなど分断をあおるような発言を続け、結束や融和に関する言葉は一切ありませんでした。なぜ、優位を保つことを急ぐのですか
舟津さん 次の中間選挙(26年11月)で、共和党が圧勝することを強く意識しているからだと思います。今は、連邦議会は上院も下院も共和党が多数ですが、そうはいっても特に上院は僅差です。中間選挙で勝つために、1年間でできるだけ実績を積み上げようとしていると思われます。選挙が近づくと、自分の選挙が危ういと思う共和党議員が、態度を変える可能性もあります。
-外交も一変しました。脅しのような取引で、実利優先、弱い立場の者から権益を奪おうという姿勢に見えます。グリーンランドやパナマ運河、ウクライナの鉱物資源などの獲得を狙い、ウクライナ問題ではロシアのプーチン大統領寄りの姿勢も指摘されています
舟津さん 外交もスピード感が全く違います。1期目はいろんなアドバイザーの意見を聞きつつ動かしていた印象ですが、今はブレーキ役がいない状態。ウクライナや欧州の安全保障についても、権益を優先するかのようなやり方です。ガザ問題では、住民を集団移転させ、その後をリゾート開発する計画を発表し、そのイメージ動画も投稿しました。ウクライナ問題も、戦争を始めたのはプーチン大統領。停戦協議でロシアの思惑が通ったら、弱肉強食の世界になります。世界の民主主義の盟主ということや、それに対する誇りに何も重きを置いてないようです。対中戦略も注目されますが、海外支援打ち切り、USAID(米国際開発局)削減などの方針は結局、対グローバル・サウス外交で、中国の漁夫の利になるのではないかとの懸念もあります。
また、関税をこんなにはっきりと取引外交の道具に使うのは前代未聞。そもそも関税を上げれば値上がりするので、インフレを抑制しません。
-施政方針演説では「私が最優先する1つは、労働者を早く救済すること。再び手ごろな価格で買える国にする」と語り、関税については「多少の混乱はあるが、再び豊かになる」などと主張しました。昨年の大統領選の勝因はインフレに苦しむ庶民からの支持だったはず。関税政策は中間選挙にマイナスになりませんか
舟津さん 米国の経済界の反応はまだら模様です。例えば、フォードなどは関税政策が米国の自動車産業に壊滅的影響を及ぼすだろうなどと発言していますが、全米製造業連盟は歓迎の姿勢。他方、金融大手や米国商工会議所は、慎重な発言をしています。巨大テック企業は、トランプ氏支持の姿勢のようですが、政権と良い関係を持てば、今後、規制などで不利にならないのではとの思惑もあると思います。
トランプ氏は、今はインフレの状態がどうなるかは気にせず、とにかく相手国が言うことを聞けば自分の成果になるという考えで、自信もあるのだと思います。
-今のところ、プーチン大統領に対する親近感のような印象と対照的に、欧州、カナダなど同盟国、友好国への厳しい対応が目立ちます
舟津さん 強いリーダーを好むというのは言われていますが、本音は分かりません。また、日本を含む同盟国、友好国の方が脅しがきき、取引がしやすい、実績を挙げやすいという考えなのかもしれません。しかし、ウクライナ問題で伝統的に良好な関係を保ってきた欧米の間に亀裂が入ったことを、世論がどう見るかも注目点です。
-米国の大統領は憲法で3選が禁止され、トランプ氏の任期はあと4年で終わるはずですが、最近、自分で「3期目」に言及することが増え、自分のことを王様にたとえて「国王万歳」と投稿したり、ホワイトハウスも王冠をかぶった肖像画を投稿しています。米メディアなどでは、次は忠臣らを大統領にし、自分は副大統領や顧問などに就いて長期の〝院政〟のようなことを狙っているのでは、などの推察も出始めています。中間選挙の先の狙いは何でしょう
舟津さん 憲法改正は困難です。だから、中間選挙で共和党を盤石のトランプ党にして影響力を残し、偉大な大統領として歴史に名を残したいという思いが強いのかもしれません。【聞き手=久保勇人】
■米国の中間選挙 大統領選挙の2年後の11月に実施される連邦議会選挙。下院の全議席と、上院の3分の1の議席が改選される。下院は定数435議席、小選挙区制、任期2年。上院は定数100、各州2人ずつ、任期6年(2年ごとに3分の1ずつ改選)。現職大統領の2年間に対する評価が主な争点になるため、与党側に厳しい結果が出る傾向があるとされ、次の大統領選を占う選挙ともいえる。現在の議席数は、下院=共和党220、民主党215、上院=共和党53、民主党47。
◆舟津奈緒子(ふなつ・なおこ) 公益財団法人・日本国際問題研究所研究員。東京外国語大学卒業、ジョージタウン大学大学院外交学修士課程修了。独立行政法人日本貿易振興機構、米国東西センターワシントンDC事務所を経て、16年11月から現職。研究テーマは米国の内政と外交、米亜関係。アメリカ学会所属。
◆久保勇人(くぼ・はやと)1984年入社。文化社会部、米アトランタ支局、スポーツ部など経験。

