2日の函館10R(2勝クラス、芝1800メートル)で1番人気のクライミングリリー(牝4)が勝ち、国枝栄師(67)が史上15人目、現役では唯一となるJRA通算1000勝を達成した。

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「どの1勝が、って聞かれたらJRAで勝った勝利を答えなきゃいけないんだろうけど、俺はやっぱり、海外への憧れがあったから…、海外で挙げた1勝、ドバイターフになるんだよな。でも、それって1000勝に含まれないだろ?」。今週の美浦、国枝師はちゃめっ気たっぷりに笑った。

ウイットに富んだトーク、明るいキャラクター、そして、巧みな文才の持ち主だ。ジャパンCに感銘を受けたモハメド殿下(83年の第3回に所有馬ハイホークが出走=13着)が日本のホースマンのために作った制度、「ドバイ奨学生制度」の第1号が国枝栄助手だった。英国で約半年間の研修。それをまとめた「諸外国における競馬事情、米、仏、英」という冊子がある。普通なら外国で学んだ馬の調教、厩舎の仕組みをリポートすればいいのだが、国枝助手の文章には自身が海外で体験した面白いエピソードが出てくる。

訪れた競馬場で途上国出身の女の子に寄付を求められ、同情していると、小銭を持っていなかったため、10ポンド札を半ば強引に奪われてしまった話。持参したカメラで競馬場内を撮っていると、「競馬場で写真を撮る職業の人の仕事を奪ってはいけない」と怒られた話など。競馬は楽しいことばかりではない。でも、師の口から発せられると、つらい思い出もどこか楽しく聞こえてくる。

大台へ向けた意気込みを聞いていると、「競馬場へ行くときに帽子は欠かせないよ、俺は英国で競馬を見てきたんだから。それに妻が選んでくれるからね」とニッコリ。麦わら帽子をかぶった心優しき1000勝トレーナー。これから先もまだまだ多くの人を楽しませてくれるに違いない。【木南友輔】