競馬界のニューヒロインだ! 新人の今村聖奈騎手(18=寺島)が、24年ぶり史上4人目の「ルーキー重賞初騎乗初勝利」を果たした。

ハンデ最軽量48キロの2番人気テイエムスパーダ(牝3、五十嵐)と果敢に逃げ、1分5秒8の日本レコードV。記録ずくめの快挙を成し遂げ、JRA所属の女性騎手では藤田菜七子騎手(24=根本)以来2人目、芝では史上初の重賞ウイナーに輝いた。

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後ろに束ねた髪が夏風になびく。ライバルたちの脚音は耳から遠のくばかり。重賞初騎乗初Vのゴールが目前に迫っても、ルーキー18歳は視界を狭めない。残り200メートルを切って顔を右に傾け、ターフビジョンで後続との差を確かめる余裕があった。温かな拍手に包まれ、ステッキを収めて3馬身半差でフィニッシュ。今村騎手が右手でテイエムスパーダの首筋をたたいた。

「うれしい気持ちでいっぱいです。逃げ切る気持ち良さをしみじみ感じながら、人馬一体になれたのではないかと思います」

早口で声をうわずらせたレース後とは対照的に、馬上ではベテランのように冷静かつ果敢だった。最軽量48キロで出脚を生かしてハナへ。前半31秒8の超ハイペースになっても「自信を持って乗りました」。その結果が1分5秒8の日本レコード。記録ずくめの快挙となった。

「私自身、小さい頃から重賞やG1の大きなレースは見てきましたし、逆の(見られる)立場で感慨深かったですが、私が気負っても馬に余計なプレッシャーをかけるだけなので。(レース中は)冷静でした」

あどけない顔を上気させてインタビューを終えると、マスクの下で3回も繰り返した。「夢じゃないですよね?」と。思い出の地で、1つの目標をかなえた。父の康成調教助手が騎手を引退する10年前まで、夏休みはいつも小倉にいた。滞在先についてきて約1カ月半、親子でウイークリーマンションに泊まり込んだ。平日は調教を見て、週末はパドックと観客席の往復を繰り返す。騎乗を終えた父にプールへ誘われても最後まで帰らなかったという。

「1レースから12レースまで競馬場にいて(父が)勝ったらウイナーズサークルへ行って。追っかけみたいでしたね。(日焼けで)真っ黒焦げでした」

おぼつかない足どりで競馬場を走り回っていた小麦色の少女は今、かつて見つめていたターフで華麗に馬を駆る。ともに女性初となる新人賞やG1制覇など、周囲の期待や注目度も高まるばかりだが、歓喜の中で「スタート直後に少し他の馬に妨害行為をしてしまった」と反省も忘れなかった。レース後は韓国系ファッションに身を包み、自炊にもいそしむ18歳。夢多き騎手人生は、まだまだ始まったばかりだ。【太田尚樹】

◆テイエムスパーダ ▽父 レッドスパーダ▽母 トシザコジーン(アドマイヤコジーン)▽牝3▽馬主 竹園正継▽調教師 五十嵐忠男(栗東)▽生産者 浦河小林牧場(北海道浦河町)▽戦績 7戦4勝▽総収得賞金 8104万7000円▽馬名の由来 冠名+父名の一部