今月末で定年を迎える橋田満調教師(70)の月イチ連載コラム「競馬は推理 だから面白い」は今回が最終回。

日本競馬の現在地と将来について語った。師が推理する、日本競馬が行き着く未来とは-。

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日本競馬は売り上げや総賞金は世界一、生産頭数でも4位と相当にすごいレベルにあります。日本競馬の良さは、出走馬に対するきめ細かで正確な情報がファンに向けて伝えられているところ。日本には競馬をよく理解した多くのファンの方々がおいでです。競馬会(JRA)と我々には、情報のオープン化が基本的な考えとして定着しています。その情報の提供をマスコミの皆さんと連帯してやれており、そういう面で日本の競馬は関連するすべての人たちが一体感を持ったものになっていると私は考えています。

すなわち、推理する材料が豊富にあるということです。競馬の後でさえ、いろんなものを皆さんが検証できる状況にあります。海外ではレース後にビデオ映像を放映していますが、日本のようにパトロールビデオを見られる国に私は行っていません。信頼を勝ち得るというのは日本競馬の最も根底にあるもの。その成果で、こういう日本の競馬文化が生まれたのでしょう。

競馬には、馬券を買うだけではない付加された楽しみがあるでしょう。推理がスポットではなく長時間、エンドレスに続いていくすごさがあり、それが競馬の面白みです。出走馬に関する情報の海の中で競馬を推理していくことが日本の競馬文化の大切な部分であり、魅力なのだと思います。

生産面では、以前は種牡馬や繁殖牝馬の多くを外国に頼っていました。ですが、今は日本の競走馬のレベルが向上し、国内での生産馬の循環が普通になりました。近い将来、日本から出て行く時代がやってくると思います。今年の英国ダービーのオッズでトップに立つオーギュストロダンはディープインパクトの子。そういう時代に突入しようとしています。

最終的には、日本の競馬というものが世界から供給されるものではなく、双方向になると思います。それは日本競馬のレベルが、競馬先進国と一緒のレベルまで上がったということ。双方向は種牡馬や繁殖牝馬、競走馬が行き来して初めて実現します。ジャパンCは賞金が上がり、新たな国際厩舎も完成し、日本の外国馬受け入れの環境は整いつつあります。外国馬にも来ていただき、日本からも出て行く。それも得意分野ではないところにも。それは関係者が、どれだけ行きたいかというところにかかってくると思います。

単純に言えば、一部の特殊なレースを除いた重賞競走の賞金は日本の方が高いのですが、私は出ていくと思いますよ。なぜなら、私が海外に行ってみて思ったことは、海外にいくと競馬の楽しみがまた1つ増えるんです。残されたのはヨーロッパ各地の競馬と、アメリカのダート路線。絶対そういう時代がきて、そしてもう1度、最終的に日本の競馬が評価されていくと思います。

競走馬の福祉の問題では、馬に対して薬を使わない方向に世界が向かっています。これはすごくいいことです。また、引退した競走馬については、日本でも競馬会が中心となり、各団体が集まった対策会議が17年から開催されて対応を進めています。競走馬のセカンドライフなど抱える問題はどこの国も一緒。私も準備委員会からの委員で、8年くらい携わっていました。競馬の将来に向かって、日本も世界も確実に進んでいるのです。

まとめとして、日本の競走馬を取り巻く環境や、競走馬を育て、作り上げていく技術は飛躍的に発展しています。そして、私が言う“推理”をしやすいのが日本の競馬。だから、日本の競馬は面白いんです。そして将来、世界の競馬と双方向の行き来ができるところに日本の競馬は到着すると思います。これが私の「最後の推理」です。(JRA調教師)