今年のフェブラリーS(G1、ダート1600メートル、19日=東京)にはレース史上初めて外国馬が出走予定となっている。

初出走初制覇の快挙を期待されるのが、カナダから参戦するシャールズスパイト(牡6、R・アトフィールド)だ。9日に来日し、昨秋に誕生した東京競馬場の馬場内にある国際厩舎に入厩済み。昨年の米G1・BCマイル(芝)で2着に入った実力があり、ダート適性は未知数だが、いったいどれだけの走りを見せてくれるのか。一般的なプロフィルから、マニアックなところまで、「絶対に知っておきたい」10の真実は?

 

1、馬主はカナダ競馬で殿堂入り オーナーのチャールズ・フィプケ氏(1946年生まれ)は鉱山開発事業を立ち上げ、91年にカナダ北部でエカティ・ダイヤモンド鉱山を発見。事業で成功を収めた後も鉱物探査の分野で精力的に活動する一方、絶滅危惧種の保護を目的とした基金を設立するなど、社会貢献にも従事してきた人物だ。初めて競走馬を購入した81年から競馬界に関わり、アメリカのケンタッキー州に2つの牧場を所有するなど、馬主、生産者として数々の活躍馬を輩出し、昨年カナダ競馬で殿堂入りを果たしている。JRAの馬主免許も持っており、現在2勝クラスのカナテープ(牝4、堀)などを所有している。

 

2、調教師はカナダとアメリカで殿堂入りの83歳 ロジャー・アトフィールド調教師(1939年生まれ)は英国出身でカナダへ移住。カナダ版ダービーといわれる「クイーンズプレート」を史上最多タイの8勝。カナダ競馬の年度代表馬を6頭も手掛けている。日本にはこれまでに2度遠征し、86年ジャパンCのキャロティーンが9着、10年エリザベス女王杯のアーヴェイが16着だった。現時点では水曜午後にアトフィールド調教師が来日し、木曜の調教後に東京競馬場で会見を行う予定になっている。

 

3、父の産駒は日本の芝&ダート兼用 父スパイツタウン(その父ゴーンウエスト)の日本での代表産駒はモズスーパーフレア、リエノテソーロ、マテラスカイなど。モズスーパーフレアは20年高松宮記念でG1馬に輝き、ダートのJBCスプリントに2年連続で参戦。20年は4着、21年は3着に好走している。リエノテソーロは札幌の芝で新馬、すずらん賞を連勝後、ダートでエーデルワイス賞、全日本2歳優駿を連勝。3歳春の17年NHKマイルCは13番人気で2着に激走し、4歳夏のスパーキングレディー(ダート)で重賞3勝目を挙げている。マテラスカイは全7勝をダートで挙げており、18、20年にJBCスプリントで2着。19年にはドバイのG1ゴールデンシャヒーンでも2着に好走し、世界を股に掛けて活躍した。

 

4、プレレーティングはトップ 昨年は米国のBCマイルに参戦。欧州のトップマイラーであるモダンゲームズ(英国)の2着に激走し、22年度のワールドベストレースホースランキングではレーティング116(芝・マイル)を獲得している。今回のフェブラリーSの出走予定馬では、昨年帝王賞を勝ったメイショウハリオの115を上回るトップの数字。昨年南部杯2着のヘリオス、東京盃1着のレッドルゼル、今年の根岸Sを制したレモンポップの113も上回っている。

 

5、G1タイトル獲得のメーカーズマークマイルとは 4歳シーズンはわずか2戦に終わったシャールズスパイトだが、5歳になった昨シーズンは8戦3勝の成績を残した。クレーミング競走、G3タンパベイSに続き、3連勝で4月のG1メーカーズマークマイルを制覇。「メーカーズマークマイル」といえば、17年の覇者アメリカンペイトリオットが現在、日本で種牡馬として活躍している。04年にはシャールズスパイトの母の父パーフェクトソウルも同レースを制覇。13、14年に同レースを勝ったワイズダンは12、13年にアメリカのエクリプス賞年度代表馬に輝いている。

 

6、母が勝った11年BCフィリー&メアターフは超絶メンバー シャールズスパイトの母は11年にBCフィリー&メアターフを制しているパーフェクトシャール(馬主、調教師は同じ)。同レースは一昨年のデルマー開催で日本馬ラヴズオンリーユーが制したことで知られる牝馬の芝中距離G1だ。11年のレースを振り返ると、豪華な顔ぶれだった。1番人気で10着に敗れたのが、あのスタセリタ(子のソウルスターリングがオークス制覇。孫のスターズオンアースが昨年桜花賞、オークス制覇)だった。2番人気で2着に入ったナーレインは引退後、ベンバトル(18年ドバイターフで日本馬に圧勝。現在はビッグレッドファームで種牡馬)を生んでいる。3着ミスティーフォーミーは17年の欧州2歳王者ユーエスネイビーフラッグの母。4着ディストーテッドレガシーの子アートコレクターは先月のG1ペガサスワールドカップを圧勝している。6着ドバウィハイツ、8着カンビーナは日本でリバティハイツ、ファルコニアが重賞を制している。11年のBCフィリー&メアターフは素晴らしい繁殖牝馬がそろった一戦だった。

 

7、社台スタリオンステーションの新種牡馬と一緒に走った実績も ダート実績に乏しいシャールズスパイト。拠点にするウッドバイン競馬場は芝コースとオールウエザーコースの2種類しかないため、過去2戦のレース内容でダート適性を推測するしかない。4歳初戦のクレーミング競走は見せ場なく5着。昨年6月に走ったG3サルヴァトールマイルは5頭立ての3着とパッとしない。ただ、このサルヴァトールマイルは見直したい一戦だ。激しく競り合う上位2頭から6馬身ほど遅れた3着でゴールしているが、前で競った2頭は1着マインドコントロール(12月のシガーマイルを含むG1・3勝馬)。2着が今年から社台スタリオンステーションで種牡馬として供用されるホットロッドチャーリー(昨年ドバイワールドC2着)だった。モンマスパーク競馬場と東京競馬場の砂質は大きく異なるかもしれないが、道中の追走もスムーズで、この一戦を見ると、ダート適性は感じられる。

 

8、あの日本人騎手とコンビを組んだ実績も 3歳(20年)7月の遅いデビューで未勝利戦、G3を連勝し、3戦目に挑んだのが、9月のG1ウッドバインマイルだった。カナダ競馬を代表するG1の1つで、陣営が鞍上に迎えたのは、日本人の木村和士騎手。21、22年と2年連続でカナダ競馬リーディングジョッキーに輝いているホープだ。同騎手は現在、アメリカ西海岸のジョッキー最激戦区「サンタアニタ」競馬場で腕を磨いている(1月には同地で重賞初制覇)。いずれ、大きな舞台でコンビ復活があるかもしれない。今回はブラジル出身のジョアン・モレイラ騎手と新コンビ。シンガポール、香港、短期免許の日本で素晴らしい実績を持つ「マジックマン」の手綱さばきに期待がかかる。

 

9、「フロリダ」からやってきたカナダ調教馬 アトフィールド厩舎はカナダのウッドバイン競馬場が拠点だが、カナダ競馬のオフシーズンはアメリカで調教を行っている。シャールズスパイトも昨年末からずっとアメリカ南部のフロリダで調整されてきた。北米競馬の情報を扱う「エクイベース」によると、同馬はペイスンパークトレーニングセンターで調整されている。東京競馬場到着時に「自国厩舎から58時間40分程度の輸送」とJRAから公式発表されているが、カナダからではなく、フロリダからの輸送というのが事実。関係者によると、フロリダからシカゴまでは陸送で20時間程度。そこから空輸されており、発表された程度の時間がかかっている。

 

10、猛時計連発 「エクイベース」によると、シャールズスパイトはペイスンパークトレーニングセンターのダートコースで昨年12月31日に4ハロン50秒4、1月8日に5ハロン62秒4、同15日に同63秒0、同22日に同61秒8の時計を出しており、日本へ出発する直前の今月4日には5ハロン61秒2の時計をマークしている。昨年11月5日のBCマイル以来の実戦であり、このレースの後にはドバイターフへの転戦も予定されているが、時計の出し方を見ている限り、能力を発揮できる状態にはありそうだ。月曜(13日)朝は東京競馬場でゲート試験に合格。レースへ向け、着実に前進している。