五十嵐雄祐騎手(39)が声を弾ませた。「会心でしたよ。最高に乗ることができたと思う。強い競馬ができて、本当にうれしかったです」。振り返ったのは、昨年暮れのG1中山大障害、ニシノデイジーの騎乗だ。

絶対王者オジュウチョウサンのラストランに注目が集まった一戦は、11頭立ての5番人気。序盤は中団に位置していたが、2度目のたすきで一気にポジションを押し上げ、早め先頭から押し切った。2着ゼノヴァースに3馬身差の圧勝だった。「ハミを換えた効果は大きかったと思います。それでも前半はだいぶ力んで走っていた。それを我慢させることができて、レース全体もうまくいきました」。

あれから2カ月半、今週土曜は阪神スプリングジャンプ(J・G2、芝3900メートル、11日)が行われる。4月のG1中山グランドジャンプへ向けた大事な前哨戦に、昨年中山大障害の1~4着馬を中心に好メンバーが集った。今回、五十嵐騎手がコンビを組むのはG1馬ニシノデイジー(牡7、高木)ではなく、昨秋のイルミネーションジャンプS覇者ミッキーメテオ(牡6、西田)だ。ニシノデイジーは昨年までオジュウチョウサンの主戦を務めていた石神深一騎手が新たにコンビを組むことになった。

G1を勝った馬ではなく、未勝利、オープン特別を連勝中の馬を選んだことになる。意外な選択に思われるかもしれないが、これは昨秋、中山大障害の前から決めていたことだ。「ミッキーメテオのイルミネーションジャンプは驚きの強さでした。『こんなに強いんだ』と。大障害はニシノデイジーで挑むことが決まっていましたが、春のグランドジャンプはミッキーメテオに乗りたいと思って、そう伝えていました」。今回は迷わず、初志貫徹でミッキーメテオを選んだ。ニシノデイジーも素晴らしい馬だが、ミッキーメテオも素晴らしい馬、とほれ込んでいる。

ミッキーメテオには1週前追い切りに騎乗し、好感触をつかんでいる。「放牧から帰ってきた馬体が大きくなったと思います。重賞は初めてだし、G1へ向けて、どれだけの競馬ができるかですね。東京で未勝利を勝ったときは『相手が弱かったのかなあ』と思ったけど、前走は強い相手もいたなかで、あれだけの競馬をしてくれた。あの内容なら距離が延びるのも悪くないと思います。正直、今回はメンバーが昨年の中山大障害に負けないぐらいそろっている。どの馬も強いです」。

昨日の友は今日の敵、となるわけだが、実は、先月中旬から石神騎手が落馬負傷で調教に騎乗できない間、ニシノデイジーの調教にもまたがってきた。気性が激しく、馬場開場時刻の後半、他馬のいない時間を狙って追い切る馬。追い切りには五十嵐騎手がまたがり、石神騎手がその様子を見守ってきた。調教を終えた後は、関東を代表する2人の名手、五十嵐と石神が意見を交換。良きライバル関係がそこにはある。

「全然G2じゃない。このレース、G1ですよ」。今年の阪神スプリングジャンプは取材中、そういう声がいろんな方面から聞こえてきた。「僕、まだ阪神だけ重賞を勝ててないんですよ。勝てば全場重賞制覇(通常開催で障害重賞が行われるのは、中山、東京、阪神、京都、新潟、小倉の6場)。だから、勝ちたいんです」。五十嵐騎手が選んだミッキーメテオ、石神騎手と新コンビのG1馬ニシノデイジーがどんな競馬を見せるのか。森一騎手のゼノヴァース(五十嵐騎手は過去に騎乗し、勝利経験がある)も強い。G1で連続3着の11歳馬マイネルレオーネや鉄人熊沢騎手と挑むケンホファヴァルト、オープン連勝中のロードアクア、良血ポルトラーノなど、豪華メンバーだ。土曜阪神8R、阪神スプリングジャンプは名手たちの駆け引き、各馬の懸命の走りに声援を送りたい。【障害競走取材班】